3-9
「これは……」
王と魔法使いの師匠が浜を離れようとした時、再び海が割れた。青色の、大きな竜が現れる。海竜はじっと王たちを見つめた。
「睨まれていますね」
「私が王だとわかっているのだろうか」
「そうでしょう」
瞳の奥に誘い込むような視線だ、と王は感じた。そして、幸運だと思っていたことを恥じた。優秀な魔法使いが助けてくれたと思っていたが、それは疑わしくなった。海竜は、わざと王を生かしていたのかもしれない。
これは、脅しなのか? 四代クドルケッド王は、気圧されないようにと強い視線を返した。父である先代を思い出しながら。
竜の瞳が閉じられた。魔法使いの師匠が、王の前に立って両手を突き出す。
竜から放たれる青白い光と、師匠から放たれる黄色い光がぶつかった。二つの光は一瞬せめぎ合ったが、すぐに海竜の魔法が勝り、黄色い光を飲み込んだ。
茫然と立ち尽くす王の前で、魔法使いの師匠は動かなくなった。
「引退はするもんではないですなあ。ただ、二度までも盾になれたことは誇りに思います」
そう言うと師匠はその場で完全に固まってしまった。目も口も動いていない。
「生きては……いるのか?」
死ねば倒れるはずである。しかし魔法使いの体は木のように立ったままだった。
「王よ」
海竜の口が動いていた。「渦のような声だ」と王は思った。魔法を使い、話しもする。そのような竜を見るのは初めてだったが、もはや海竜に何ができても驚きようがなかった。
「海竜よ。お前が話しているのだな」
「そうだ。お前は約束を破り、災いを受け入れた。そればかりか、われわれを傷つけるのを見過ごした」
「センデトレㇺ島のことか」
「それだけではない。いいか、人間の王よ。我はこの島々を作り直すことにする」
そう言うと、海竜はゆっくりと海の中に姿を消していった。
海竜の姿が消えるのを見届けると、四代クドルケッド王は魔法使いの体をゆすった。温かかったが、全く反応はなかった。
「なんなんだ、一体なんだっていうんだ!」
その声は、誰にも届かなかった。
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