3-8

「まいったなあ」

 テレプは、渋い表情をしていた。リンデリンデ島をどれだけ見回しても、ほとんど何もない島である。少しばかり背の低い草が生えており、時折鳥がそれを揺らすのが見える。ウミガメがいることもあるらしいが、今はいない。ヤドカリはたまに歩いている。

「何を思い悩んでいる」

「どう生きるかですよ。水や食料の確保をしなければ」

「ここで生きていくつもりか? 俺はここを出るぞ」

「……どこに行くんですか? 泳いで渡る人もいないではないです。ただ、それで命を落とした人もいます。しかも風嵐ふうらんの時期です、潮流も読みにくい。鮫が出ることもあります」

「じゃあどうするんだ」

「船さえあればどうと言うことはありません。誰かが来るのを待つしか」

「来るのか?」

「あれだけの人間が飛ばされたので、探してくれると信じたいですが……ただ」

「ただ?」

「残った人がいるのか。皆が飛ばされていては探す人がいません。それにここは、用事がなければあまり来ない海域です。見つけてもらえるかどうか」

 テレプは、首を振った。口らは出さなかったが、別の懸念もある。二人は、探し出す優先度が低いかもしれないのだ。テレプは身分の低い一魔法使いに過ぎない。スタンティムは来訪神の中でも「神からは遠い」存在に思われていたし、今や神の使いかどうかも疑われている。

「なんてことだ。あと少しで帰るところだったというのに」

「だんらこそ海竜が現れたんだと思いますよ。あなたたちを逃がさないために」

「なんだと」

 スタンティムがテレプをにらみつける。テレプも鋭い目つきで返した。

「センデトレㇺ島に入りましたね」

「俺は知らん」

「そうだとしても……これはある程度、確信しています。あなたたちはあの島に入り、何かを持ち帰りもした。それが原因であると思っています」

「そんな話は聞いたことがない」

「僕も知りませんでした。あるいは、伝承にもないことかもしれません。ただ、これは知っている。竜に関わらずにいなければならない、と。警告もしたはずです。そもそもあなたたちはそれを求めてここに……。やめましょう。もめている場合ではないですね」

 テレプは、ある方向を指さした。その先には、小さな島影が見える。

「あれは有人島か」

「レ・ペテ島です。本当に泳いで渡るべきなのか、少し様子を見ましょう。僕たちは運命共同体です。協力できるこことはしなければ」

「……ああ、そうだな」

 二人は、くまなく島内を探索した。僅かばかりの流木と、いくつかの死体を一か所に集める。

「死体で船でも造るのか」

「物騒なことを言わないでください。弔いと……レテを集めるんです」

「魔法で飛べたりしないのか」

「残念ながら。『ぶっ飛ぶ』ならできるかもしれませんが、どこに着地できるかは……着水するでしょうが。申し訳ないですが、皆の服はお借りします。雨が降ったらここに沁み込ませて雨水を得ましょう」

「すごいな」

「あなたたちこそ、海を渡ってきたならこういう知識は豊富なのでは?」

「俺はその係ではない」

「そうですか……。僕らは漂流した時のことを子どもの頃から教わっています。誰もが漁に出るので」

「素晴らしい」

「とにかく、一晩は待ちましょう。泳ぐかどうかは、明日決めましょう」

 テレプは空を見た。どこまでも澄み渡っている。そして、二人の水分を奪い去っていく太陽が光っていた。

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