3-7

「うぐ……がはっ」

 テレプは水を吐き出した。喉の奥に海水の苦さが残る。

 海に落ちた後必死に泳いで、なんとか陸地にたどり着いた。急に大きな魔法を使ったせいで、頭の中が揺れ続けているような感覚がする。

「ここは……リンデリンデ島?」

 木々も岩も見られない、砂浜だけの島。三日月形になった陸地が、二つ並んでいる。人々がたまに海水浴に訪れるのが、無人島のリンデリンデ島だった。

 テレプは何回かジャンプをして、体の様子を確かめた。そして、周囲を見渡す。何人かの人間が打ち上げられて倒れていた。

 順番に確認していくが、息がなかった。そして、最後の一人。

「あっ」

 見覚えのある顔だった。

「スタンティム……息がある」

 同胞であれば、とテレプは一瞬思った。首を振って、その思いを振り払う。

「気が付いてください」

「うう……」

 スタンティムが呻きながら目を開ける。テレプの顔を確かめ、その後島と海を見た。

「何があったんだ……」

「あの竜が魔法を使ったんです。見たことのない種類と大きさでした。みんな飛ばされたんです」

「ここは?」

「リンデリンデ島。無人島です。僕らの他に生存者は……」

「あの竜は、知られた存在なのか?」

「初めて見ました。海から現れる竜は、見たことも聞いたこともありません」

「なんだって帰る直前に……」

 きょろきょろとあたりを見回すスタンティムを、テレプは冷たい目で見ていた。



「王、大丈夫ですか」

 その声は、魔法使いの師匠のものだった。四代クドルケッドは、小さく頷く。

「これはどういうことだ」

「皆、飛ばされました。見事に、人だけを飛ばす魔法でした」

 師匠の言うように、驚くほどに浜も建物も元のままである。準備された料理も、そのままの形で残っていた。

「海竜……人々を許さず、全てを変える者。まさか姿を現すとは」

「今は姿を消していますが……もう一度現れれば、私にもどうしようもありません」

 師匠は、あらん限りの力で防御魔法を展開した。王を守りきるためにも自らが飛ばされるわけにいかず、結果二人だけ取り残されたのである。

「他の魔法使いたちもやられたのか。とんでもない力だ」

「何かが起こると予感していたというのもあります。海竜とは思いませんでしたが」

「よそから来た者たちの騒ぎに、怒ったのかもしれぬ。とにかく今は、皆を探さねば」

 王はそう言ったが、柱に手を着いたまま動けなかった。「闇のお方」とも呼ばれる王は、体力に優れているわけではない。心身ともに、一気に疲労していたのである。

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