3-6
人々に水しぶきがかかる。巨大な竜は、あっけにとられる者たちを見下ろしていた。
争いは止まり、竜を凝視する者と逃げ惑う者に別れた。ナトゥラ諸島の人々にとっても竜は陸に住むものであり、海から現れる姿には驚くばかりだった。しかも、普通の竜の三倍は体長がある。それは完全に未知の存在だった。来訪神にとっては怪物である。
「あれの伝承が……あるのですか?」
族長の一人が、ルイテルド島の当主に尋ねた。彼は、海竜という言葉すら知らなかったのである。
「移り住んだ私たちの先祖を認めず、陸から去った竜。諸島からも遠く離れて暮らしているとの伝承だった……」
ただの言い伝えではない。それは、今目の前にいる。瞳も青く、晴れた日の浅瀬のように澄んでいた。
「海竜とはいったい……どのような力を持つ竜なのですか?」
「そこまではわからない」
「最も力を持つ竜だ」
重々しい声だった。いつの間にか、島主たちのそばに四代クドルケッド王が立っていた。
「王、ここは危ないです」
礼を軽く終え、島主が慌てて言う。
「どこにいても同じだ。海竜は、全てを変えるときに現れる。おそらく今この、騒乱と危機を危機を変えるために」
「変える……?」
「その昔、二体の竜が非常に大きな力を持っていたと言われる。一体は、『聡明なる星』と呼ばれた」
「あのサ・ソデ島の」
「そう。人々が訪れる前よりこの島にいたと言われる、長命の竜。もう一体が、青き海竜。今目の前にいるのが、おそらくそれだ」
海竜はぐるりとあたりを見回した。瞳が、すべて人々を捕らえる。
「あれは、何なんだ……」
テレプは、茫然としていた。とてつもない威圧感。それは恐怖の対象でもあると同時に、神々しさも放つものだった。
ただ、見とれているわけにもいかなかった。大量のレテが、海竜に方に流れ込んでいたのだ。
「竜が魔法を……! ルハ、ルハはどこ?!」
その瞬間、テレプがルハを見つけることはできなかった。そして、彼は本能的に、自らを守るための魔法を必死に「唱えた」。詠唱による強力な防御魔法でないと、意味がないと感じたのである。
海竜の周囲に、青い光、緑の光、黄色い光がいくつも出現した。それらは鳥の群れのように人々へと襲い掛かった。光の衝突した人々は体を巻き上げられ、遠くに弾き飛ばされた。海の中に落ちる人々も見えた。テレプは風の魔法に包まれたが、それでも衝撃を受けて体は空中へと舞った。そのまま遠くへと、飛ばされていく。
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