3-5
来訪神を送り出す祭事は、レ・クテ島をあげて行われた。ブタや鳥の肉を初めとする様々な料理が振舞われ、音楽が奏でられ、踊りが披露され、魔法の光が空で弾けた。とりあえず楽しみたい人間にとっては、この上ない催しである。
テレプも参加していたが、そわそわとあたりを見回していた。どこを見てもルハの姿はなかったのである。すでに来訪神に引き渡された後かもしれない。早朝から始まった祭りは昼に終わり、そこで来訪神は旅立つことになっている。
「テレプも、そろそろ飲むか」
村の男に酒を飲まされそうになったが、テレプは首を横に振った。そのような気分ではなかったし、酔うわけにはいかないと考えていたのだ。胸騒ぎがしていた。正確な魔法を使えるようにしておかなければならないという、予感。
酔えば騒ぐのは、どこの者でも同じだった。来訪神の中にも、羽目を外す男がいた。弱そうな男に腕相撲を挑む。酒の弱い者に無理やり飲ませる。女性を追い回し、迷惑をかける。
「困ってるじゃないか」
そんな言葉も、届かない。言語が違うことが原因だったが、通じたとしてやめたのかどうかはわからない。
女性を執拗に追う来訪神の男に見かねて、ナトゥラの男が腕をつかんだ。そこから、取っ組み合いの喧嘩が始まる。止めに入ろうとした者もいたが、多くの人間がはやし立てた。また、来訪神に疑いを持つ人間は、ひどい罵倒もした。
「おい、おいやめんか!」
「王の御前ぞ!」
「恥ずかしくないのか!」
「来訪神に何ということを!」
慌てて族長やその配下たちが駆け寄ってくる。
「怪しいと思ってたんだ!」
「何が来訪神だ!」
争いに加わってくる男たち。来訪神の側も、応援に入る。二人の喧嘩はやがて、大勢による乱闘となってしまった。
「――! お前たちやめるんだ!」
スティンタムが、二つの言葉で叫んだ。それでも騒動は収まらない。
「何がどうなっている」
「王は近寄らぬよう……」
様子を見に行こうとする四代クドルケッド王を、護衛たちが引き止めた。騒乱はどんどん大きくなっていく。
「全く、騒ぎおって……ん」
魔法使いの師匠が、人々を拘束すべく魔法を使おうとしたところ、来訪神の魔法使いと目が合った。相手も魔法を使おうとするところだった。二つの魔法がぶつかり合えば、大変な事態になるかもしれない。
相手も躊躇したのか、お互いに魔法の発動を戸惑った。そのとき。
海から、水が二つに割られ、何かが現れる音がした。鮫やイルカとは比べ物にならないほど大きなものの音が響き渡った。人々が一斉にそちらを見る。
竜がいた。青色の、首の長い、大きな竜。
ルイテルド島の島主がそれをみつめながらつぶやいた。
「海竜……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます