3-4
「帰ってきた痕跡もあります」
センデトレㇺ島とレ・クテ島の間の海を眺めながら、テレプは言った。隣で魔法使いの師匠が頷く。
「お前は本当にできがいい。私にも確信は持てなかった」
「僕も確信というわけではないです。ただ、何かが起こっているのは事実です」
テレプは、砂浜を何度か踏みしめた。
「感覚は大事だ。お前は誰よりもそれに優れている」
テレプが感じているのは、レテの異変だけではなかった。レテは死んだ生物の魂だが、もっとうねりの激しい、生きた者の躍動も感じていた。それが何なのかまでは、彼には言語化ができなかった。
「竜と人間は、昔はどのような関係だったのでしょうか」
「どうした、突然そのようなことを」
「僕はまだ、多くの伝承を知りません。竜の恩恵も脅威も、噂でしか聞いていないのです」
「私もそうは変わらない。伝承は覗き見れるものではない。必要な時に必要な時だけ教わるだけだ。多くの場合、竜と共に暮らし始めたところから伝承は始まる。その前のことはわからない」
師匠は、海の向こう側を見つめた。
ナトゥラ諸島には文字がない。後世まで残る絵もない。全ては言葉で伝えられていく。誰もが知る物語は、伝承そのものではなく、わかりやすくなった物語である。歴史は一部の者にだけ教えられていく。
「皆は、東からやってきたと言われています。来訪神も東からやってきました。ですが、姿が違う。東の世界には何があるのか。僕らはどこから来たのか……。何もわからないのは、怖いです」
テレプも、海を眺める。
「知ることも、きっと怖い。知ったとして、何もできないことを恐れはしないか?」
「そうですね。でも僕は、知りたいです。知ったうえで、何かを成したいのです。僕は魔法を使って……幸せになりたいです」
テレプは拳を握った。師匠は、凪のような緩やかに揺れた瞳で弟子を見つめた。
諸島では、普段はあまり肉を食べない。主食は野菜や果物であり、肉はハレの日に食べるものである。魚は日常的に食べるが、いつどれだけ獲れるかわからないので、あまり依存しないようにしている。鳥はかつて取りすぎてしまい、激減した。そのため現在では食すことが禁止されている。
ブタの蒸される香りは、人々に宴の準備を知らせる。
最近で最も盛大だったのは、四代クドルケッド王就位式である。全ての島で最高の料理が用意され、二日にわたって宴が催された。それ以外にも島主や族長が交代した時、結婚式、出産などで、大小の宴が催され、巨大な鳥が振舞われることもある。
このブタ料理はとても美味で、多くの人が食べられるのを楽しみにしている。身分の差なく振舞われ、大人は酒も飲み、気分が最高に高揚する。
諸島の中には、祝い事があると「肉の日だ」と言うことまである。来訪神を送り出す宴は、人々にとってとても楽しみな「肉の日」となっていたのである。
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