3-2

「族長にお会いすることはできない」

 そう言われて、テレプは族長の家の前でうなだれていた。

 来訪神にルハを献上させないため直談判しようと族長のところにやってきたのだが、会うことは叶わなかったのである。かつてテレプを護衛にしてセカの種を与えた族長だったが、本来ならばテレプとの間には会話もはばかられる身分の差がある。四代クドルケッド王はそのような身分差をできるだけ撤廃したいと考えていたが、長年蓄積されたものがすぐになくなることはない。

 テレプは、引き返すしかなかった。

 涙が出てきた。それで初めて彼は、ずっと涙を我慢していたことに気が付いた。これまで、何のために魔法の修業をしてきたのか。何のために籠を編んできたのか。頑張って、出世して、ルハと一緒に過ごすためではなかったのか。ルハを幸せにするためではなかったのか。

 テレプは涙をぬぐって、上を向いた。できることを、するしかない。



「これはこれは。見事な魔法だ」

 浜からセンデトレㇺ島を見ながらそうつぶやいたのは、魔法使いの師匠である。

 テレプから報告を受けた彼は、毎日朝にセンデトレㇺ島を確認していた。師匠には、レテの異変がすぐには感じられなかった。しかし集中すると、波の上にいつもと異なる流れがあるのが分かった。

 諸島では、知られていない構造の魔法が使われている。センデトレㇺ島へと向かった魔法の残滓は、崖の上までつながっていた。

「構成が全くわからない。しかも、なかなか見つからないようになっている。あの魔法使い、色々隠していたようだ」

 師匠は、にやにやしていた。未知の魔法に出会えたのが嬉しかったのだ。弟子を育てる立場になって、冒険ができなくなった。若者に背中を見せる立場では、なかなか失敗できないのである。今は、失敗してもいいので未知の魔法を使ってみたい、と思っていた。

 しかし好奇心はやがて落ち着き、嘆息に変わる。彼は、偉い魔法使いであって、偉い支配層ではない。諸島での異変を前にして、好奇心を優先するわけにはいかない。

「誰か島に行っとるな。ご苦労なことだ」

 魔法使いの師匠はそう言うと、後ろ髪をひかれながら浜を後にした。

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