2-8

「その……彼らの言っているのがルハとわかりまして」

「本当か」

「それが本当なんでして」

 報告を聞いて、族長は頭を抱えて。

「あの暴言娘が、どうして見染められるのだ」

「まあ、あちらには彼女が何を言っているのかわからないですからなあ」

 来訪神は、人員の補給を要求してきた。航海において失われた命もあり、「労働力」が求められている。そして、女性も。

 諸島においても、人員の贈与は特別なことではない。一般的なのは村や島の間での交換だった。それは血の多様性のためでもあり、結束のため、契約のためでもあった。物と人との交換もしばしば行われた。

 ナトゥラ諸島の美しさに感動した来訪神の中には、残りたいという者もいるという。また、次回以降には様々な技術者も訪れるはずだ、と。一方的な献上を求めるものではない、と族長は解釈した。

 諸島は平和な場所だったが、争いは存在する。これまでも様々な戦争があった。王に反旗を翻す者もいたし、常に王や島主の権威が安定していたわけではない。特にレ・クテ島は長年ルイテルド島の支配下にあり、住民の不満も大きい。島主も族長も、力を付けて関係性を覆したいと考えている。

 未知の物質や動物、植物に技術。それらを手に入れることは、強さにつながる。仲良くみんなで分け合いたい、と考える者は少ない。

「まあ、跳ねっかえり娘で見返りがあるのなら、こんなにいいことはないわい、なあ」

 族長は低い声で笑った。



 テレプは一人で釣りをしていた。いつもなら籠や網を編んでいる時間である。しかし彼は気になってしょうがなかったのだ。センデトレㇺ島になぜ未知の竜がいたのか。来訪神がやってきたことに関係があるのか。何かよからぬことが起こりつつあるのではないか。

 島は静かにたたずんでいる。先日見た首の長い竜は、確認できなかった。センデトレㇺ島はごつごつとした岩で構成されており、海から見上げただけでは全体を見渡すことはできない。残念ながら、空を飛ぶ魔法や鳥の目を借りる魔法は諸島には存在しない。あの竜が今もいるのか、何をしているのかテレプにはわからなかった。

 ただ、何かがおかしいと感じていた。センデトレㇺ島の方へと、レテの流れた跡がある気がしたのだ。自分以外の魔法使いが何かをしたというのは、普通に考えられる。しかし、テレプの全く知らないレテの「流れ」だった。

「全く立ちの違う魔法が使われたとしたら……だよなあ」

 その時、針に魚がかかった。テレプは考えるのをやめて、竿を引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る