2-7

 暗闇の中に、小さな白い光の球が浮かんでいた。それは、揺れることはなかった。魔法使いが小さな声で合図をすると、光の球はゆっくりと沖に進み始めた。

 光は、黒くなっていった。闇に溶け込んでいく。それは遠い地の魔法においても、最上級のものだった。誰にも見えないように、海を渡っていく光。「光らない光」を出せる魔法使いは、諸島には存在しない。

「なるほど。夜に眠らぬ竜もいるのか」

 黒い光は、センデトレㇺ島を見下ろす位置までやって来て止まった。光は目となり、島の様子を映し出して魔法使いまで送る。正確には「見ている」のではない。「流れを察知している」のである。

 魔法使いの心に、島の「動き」が流れ込む。竜の動きは「一触瞭然」だった。夜は眠っている竜も多いが、「息の動き」はある。動いているものは、ゆっくりと歩いている。

「卵の動きまではわからない、か」

 魔法にも限界がある。生まれる前の生物の動きまでは把握できない。

 その時、魔法使いの中に大きな衝動が入り込んできた。崖を登って島に入ってくる竜がいたのだ。

「うっ」

 黒い光が霧散した。魔法使いの心が乱れて、魔法が消えてしまったのである。

「なんだったんだ、あれは」



「ふう。やはり外は苦手だ」

 四代クドルケッド王は、深く息をついた。

 彼は、レ・クテ島からルイテルド島の王宮に戻ってきた。

 自室で一人、大きな椅子に腰掛ける。窓は開け放たれており、湿った風が通り抜けていく。

 王は、一枚の絵を見ていた。来訪神から渡されたものだ。丸々と太った、牙の生えた生物が描かれている。「ブタ」というらしい。

 彼らが保存食として食べていたものの中に、そのブタを加工した食品があった。その肉は美味で、腸までも見事に加工して持ち運ぶことができるという。「次に訪れる際には、生きたブタを持ってきましょう、とのことです」とスティンタムは言った。

 ナトゥラ諸島ではニワトリが飼われているが、それほど数が多くない。野生動物はいるものの、大型の家畜というのはいない。魚は不漁になることもあり、安定した大型家畜というのはとても魅力的である。

 ただ、恐ろしくもある。未知の生物がやって来ると、島の何かが失われてしまわないか。そもそもブタというのは諸島で暮らしていけるのか。人々が奪い合わないか。

 他にも、決めなければならないことが多すぎる。しばらくは現場のことは島主に任せることにして戻ってきたのだが、大事なことは最終的に王が決断しなければならない。

「めんどくさいなあ」

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