2-6
「これは……確かに見たことがない」
そう応えたのは、ルイテルド島の島主である。テレプの前にいるのは族長と島主だった。この島主は、レ・クテ島も治めている。
「何かの予兆でしょうか」
「わからない。元々居たのを知らなかっただけかもしれない。どう思う」
島主に尋ねられたのは族長である。少し疲れた顔をしていた。
「まあ、それほど騒ぐことではないでしょう。色々な竜がいたのは周知の事実です」
皆の前から、黄色い膜が消失した。テレプの額には汗がにじんでいた。「記録再生魔法」と呼ばれるそれは、技術と体力を大きく消耗するのである。
「まあ、そうだろうが。竜は様々なことの予兆でもある」
諸島の人々は竜を敬ってきた。ただ崇めてきたのではない。畏れ、恐れてきたのである。人々が諸島に訪れる以前から、竜はそこに住んでいた。神に住むのを許されていた、と伝わっている。人々はその土地を、竜から借りる形で住み始めたのである。
同じ土地に住みながら、竜と人間はあまり接触せずに暮らしてきた。竜は険しい山の方に住むのを好み、たまに集落や浜の方に下りてくる。もしくは、センデトレㇺ島のような無人島に住んでいる。人間は竜の居場所は避けて家や畑を作ってきた。山にも極力入らないようにしてきた。
竜を傷つけない、刺激しないのは当たり前で、そこから利益を得ようなどとも考えなかった。ただ、人々が諸島に害成す存在となったとき、竜は敵となるだろう、と伝えられている。
「竜ならば、来訪神を快く迎えているはずです。どちらも、神からの遣いですからな」
テレプたちの族長は、すっかり客人たちを来訪神だと信じるようになっていた。そう信じこむ方が得だと思ったのだ。特に来訪神から貰った鉄の道具は、便利なことこの上なかった。芋や魚を楽々と切り裂き、全く刃こぼれをしない。土を耕したり、木を削るのにも便利だと教わった。それらをもっと入手できるとすれば、豊かになることができるだろう。それに対して来訪神たちが求めたのは、ココナツなどであった。船旅において水分を採るのに役立つのだという。また、島に生えている木々にも興味を示していた。それらは軽くて丈夫で、船を修理したり、道具を新調するのによさそうだという。
それらを差し出すだけで鉄などの「新しい宝」を入手できるならば、相手は神に違いないのだ、と族長は考えた。
「とりあえず、注視することにする。ああ、色々なことが起こりすぎている」
島主は深く嘆息をした。
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