2-5

「なんかいないか?」

 ルハが、指さしながら言った。

「あ、見たことのない竜だ」

 二人の視線の気には、センデトレㇺ島があった。諸島には有人島が五つあるが、その他にいくつもの無人島がある。センデトレㇺ島はその中でも特に大きい。断崖絶壁と火山の吐き出した岩が人々の居住を拒んでおり、多くの竜の住処となっている。ルイテルド島のすぐ側にあり、島の様子はある程度目視できるのだ。

 人が下り立つことは困難で、島内の様子はまだまだ不明な点が多い。だが、大きな竜が何体もいることは、外から見てもわかるのである。

 有名な竜は、島民たちに姿かたちを覚えられるほどである。

「他の島から来たのかねえ?」

 その竜は、他の竜よりも首が少し長いように見えた。テレプは、右手をゆらゆらと揺らし、黄色く平たい膜のようなものを呼び出す。

「撮っておこう」

「なんだそりゃ」

「見たものを映しとる魔法だよ。鮮明には無理だけど……」

「便利だな」

「すごい量のレテを使う」

 テレプは、島の中で動く竜を凝視した。魔法に集中するためには目をつぶることも多いが、この魔法ではそれもできない。

 必至に力を込め、膜の表面に映像を刻んでいく。ルハはその様子を、じっと見つめていた。



「センデトレㇺ島というそうです」

「発音が難しいことだ」

 語り合っていたのは、スタンティムと来訪神のリーダーの男である。

「島によっても少しずつ違いますが、そんなことはどうでもいいですね。あの島は無人島で、人が上陸もほとんどしないようです。外からでも竜がいるのがわかりますが、おそらく竜の楽園になっているのではないかと」

「誰も行かないのならば、われわれが行っても気づかれぬ、と。しかしあの崖を登るのは難儀だろう」

「岩登りの得意な者がいます。別に竜を殺すわけじゃない。死んだ竜の骨や鱗、脱皮した皮膚だって高く売れるでしょう。卵でも手に入れば万々歳です」

「お前の祖父の祖父はここの出身なのだろう。そんなことをしてはいけないと、伝わってはいないか」

「家で竜の話はしませんでした。してはいけないとわかっていたのでしょう」

「そうだな。もししていれば、もっと早く多くの者がこの諸島を目指していたことだろう。たとえこの地が支配できないとしても、竜の何かを持ち帰れるだけで、充分国王はお喜びになるだろう」

「国王、か。きっとこの諸島の王とは、全く違うことでしょうね」

「当たり前だ。天の神に認められし正統なる統治者だ。海の真ん中で王と名乗っているものとは全く違う」

 スティンタムは苦笑した。彼の故郷にも王がいるが、おそらく同じ理由で見下されてることは明白だった。

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