2-2

「あの鱗、見たか」

「ああ、見た。硬くて頑丈そうだ。武器にも防具にも、加工すればいくらでも使えそうだ」

 居住地に戻ってきた来訪神たちは、語り合った。彼らは監視下でしか動かけなかったが、それでも運よく竜を目撃することができた。それは異国において、最も驚くべき発見だった。

「スタンティムの言っていたことは本当だったんだな」

「様々な言語を操る親しい男だとは思っていたが。実際彼方ナトゥラの言葉も通じたし、すごい奴なのかもしれん」

 彼らにとって、スタンティムも異国の者である。ナトゥラ諸島の伝承を知る者を探していたところ、スタンティムに出会ったのだ。スタンティムはナトゥラの末裔と語り、その言語を継承していると言った。そればかりか、すぐに異国の言葉を覚え、通訳をこなすまでになったのである。

 「異言語の早期習得」は彼らにとって未知の魔術であった。スタンティムは重宝される人材であるとともに、得体のわからない存在でもあったのだ。

「しかしこれならば、俺たち調査団は断罪されることはないな」

「そうさ、前回のやつらは重罪人みたいな扱いだったからな」

「いくら命令されたって、彼方に着くなんてそう簡単なことじゃない。俺たちは運がよかった」

「まあ、帰れなければ意味ないんだが」

「それは言うなよ」



「光を出す、と言っています」

 多くの兵士や魔法使いと、四人の島主たち、族長が二人の男を取り囲んでいた。一人は通訳のスタンティム。もう一人は来訪神の魔法使いだった。

 魔法使いは、何やらもごもごと言い始めた。それが呪文だとわかったとき、ナトゥラの魔法使いたちはざわついた。言葉による魔法は、レテを召喚しすぎる。巨大な魔法になってしまうのだ。

 だが、穏やかな淡い光が魔法使いの上空に現れた。太陽の光に近い色である。

「なんと」

 声を出したのは、皆の師匠である。感嘆の声だった。

「……基本的には、呪文を唱え、力を制御している、と言っています」

「力とはレテのことか」

 師匠が尋ねる。

「……われわれの言葉では、クメゼドであると」

「クメゼド……」

 テレプは、真剣な表情でやりとりを見ていた。魔法に別の体系があることは驚きだったが、理解できないわけではなかった。呪文で集めた力を、完全に制御しているのだ。制御自体が、呪文の中に含まれているのかもしれない。

「僕もあれが使えれば……」

 テレプは、つぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る