竜との出会い

2-1

「籠を編むのは久しぶりだなあ」

 昼過ぎ、テレプは自宅で仕事をしていた。他島から魔法使いが来たこと、「来訪神」たちの行動制限が緩和されたことで、監視の職務から解放されたのだ。

 今後は、偉い人たちが何とかするだろう。

 日常が戻ってきたのだ。魔法を磨いて、仕事をする。そういう毎日。

「テレプ、いるか」

 表から、ルハの声がする。テレプは籠を放り出して玄関に向かった。

「どうしたの、ルハ」

「どういう人たちに見えたんだ、テレプは」

「え? ああ、来訪神のこと」

「その呼び方はしっくりこねえ。まあ、いいや。その来訪神たちは、アタシにはどうも怪しく見える。村のことじろじろ見まわってんだが、アタシのことも気持ちわりい目で見やがった」

「それはルハがきれいだからだよ」

「……。アタシは静かに仕事がしたいね。まったく」

「あれ、もう行くの?」

「仕事!」

 ルハが去っていく後姿を、テレプは笑顔で見送った。



「竜が出たと騒がしくなっております」

 王のところに、報告が入った。

「何か起こったのか」

「いえ。ゆっくり現れて、眠っているそうです」

「ああ、来訪神が騒いでいるのだな、彼らの島には竜がいないのか」

「スタンティムによるとそのようです」

 諸島には、竜がいる。ナトゥラ諸島の歴史は、竜との歴史であると言ってもいい。

 伝承によれば、最初ナトゥラ諸島の人間は竜の敵だった。ルイテルド島以外に住むことを許されず、そこでもしばしば争いになったという。しかしだんだんと人間と竜は共存するようになり、多くの島で人間が暮らすようになった。

 竜は、人間を恐れず、気ままに暮らしている。人々も、よほどのことがない限り邪魔だとは思わない。

 だがそれは、異国の者たちにとっては違った。初めて見る竜は大きく恐ろしく、不気味だった。

 諸島の人々にとっては当たり前すぎて、「竜に触れるな」という警告はなされていなかったのである。

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