1-9
「テレプ、昼は見なかったな」
そう言うルハの眉間には、皺が刻まれていた。
「夜の警備を頼まれていて寝ていたんだ」
「いつまで続けるんだ」
「僕の決めることじゃないよ」
「アンタの仕事もあるだろう。それとも報酬が貰えるのか?」
「貰えるんじゃないかなあ」
「確認しておけよ」
「心配してくれてありがとう」
「心配なんかするか! じゃあな」
ルハは去っていった。
「ここに何の用があったんだろう」
テレプが今いるのは、浜が見渡せる小高い丘である。十数人の人々が、忙しく働いているのが見える。客人たちが与えられたのは土地と食料だけで、食事の準備は自分たちでしなければならなかった。また、座礁した船を修理するための素材を集め、加工している。破損した船は応急処置をし、スド・ルイテルド港まで運び本格的な修理をする予定なのである。
海を渡るのは、テレプも夢見たことがある。諸島の外に人の住む世界があることは、なかなか想像しにくい。すくなくとも、沖に出ても小さな無人島以外は見えず、水平線が広がるばかりである。海は平らなのに、なぜ遠くの島々が見えないのかと疑問に思ったこともある。水平線で海は途切れているようにも思えるのだ。
根気よく考えることは、得意ではなかった。テレプは、疑問は疑問で持ち続けている。
あの大きな船をどうやって作ったのだろう。どれだけの魔法使いで補助したのだろう。やはり遭難した船などもあるのだろうか。
直接尋ねることは禁じられている。情報は、限られたものに許された財産なのだ。
テレプは、人々の様子を見続けている。
「王、あのお方たちは来訪神ですぞ」
渡航で再開されるなりルイテルド島にいち早くやってきたサ・ソデ島の島長が、強い口調で言った。
「そう決めるには早くないか」
王は頬杖をついていた。彼は四人の島長のうちで、サ・ソデ島の島長が一番苦手だった。最も年を取っていて、最も賢く、もっともしつこい。
「聡明なる星が亡くなってはや60年以上が経ち、諸島に神の及ぼす力は陰っています。嵐く髪がやって来て、恵みをもたらしておかしくない時期です」
「それだけでは彼らかどうかはわからないだろう」
「いえ、あの立派な船。神々しい姿。間違いありません」
「神々しいと思うかは人それぞれだろう。他の島主たちとも話をしよう」
こうしている間にも、「来訪神が訪れた」という噂は諸島中に広まりつつあった。基本的にそれは、喜ばしい話と受け止められたのである。
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