1-5
海の中に日が沈もうとしている。小船を先導する魔法の光が、黄色く青い波を照らしていた。
「伝承によれば、二度、大きな戦争があった」
族長が語り始める。
「一度目はこの、レ・クテ島の反乱。鎮圧されて以降、レ・クテ島はルイテルド島の管轄となり、この島には島主がいない。二度目はデギストリア島の魔法使い騒動。外海との戦争はない。外にも人がいることは知っていたが、いざその可能性を考えると震えるものだ」
残った人々は静かに聞いていた。ほとんどが戦士と魔法使いだった。他の者は皆、日常生活に戻っていた。
小船が帰ってくる。そこには見慣れぬ一人も乗船していた。背が低く、両腕に多くの刺青がある。髪は編み込まれ、精悍な顔つきをした青年である。
浜に船が着くと、戦士たちが槍を手に警戒する。
「交渉役という男を連れてきました」
船の漕ぎ手が言った。
「そうか。私がここの族長だ。言葉はわかるか」
「わかる。だが、俺以外は苦手だ。俺はスタンティムという」
スタンティムと名乗った男は、小さく頭を下げた。
「そうか。かつてこの地に流れ着いた西の民は誰も言葉がわからなかったという。お前はなぜわかる」
「あなたたちと祖父を同じにするからだ。かつてこの地から旅立ったが帰れなかった者がいる。その者の子孫だ」
「何と……。それが真かはわからぬが、ここを目指してきたということか」
「そうだ。俺たちはナトゥラ諸島と交渉をするために来た。だが、船が一艘座礁してしまった。困っているところにそちらから来てくれたというわけだ」
「困っておるのか。武器を捨てこの浜に留まるならば、上陸の許可を与えるという王のお達しである。戻って伝えてくれるか」
「わかった」
スタンティムを乗せ、船は戻っていった。
ナトゥラ諸島には、五つの有人島がある。かつて東から来た人々が最初に訪れたのがルイテルド島。ここには王がいる。そして今回外海から何者かが訪れた、レ・クテ島。魔法使いたちの反乱があった、現在は禁魔の地デギストリア島。他にはサ・ソデ島と、レ・ペテ島である。
外からの船がやってきたことは、レ・クテ島以外にもすぐに伝わっていった。特にサ・ソデ島の島主は、その話を聞いたとたん天を仰ぎ涙を流したという、
「ついに、神がお使いを寄越してくれたのだ」
デギストリア島、レ・ペテ島でも、同様の話をする族長が現れた。
この三島は、ルイテルド、レ・クテの二島とは少し異なった文化を持っている。人々が東の海からやってきたとき、最初に住んだのはルイテルド島であったとされる。続いてレ・クテ島。わずかな時の違いであるが、三島は歴史が短い。「新たな島に移った誇り」が、今も魂に残っているのだ。
「この地を安定させたとき、神が訪れると伝わっている。偉大なる王のお力により、その時が訪れたのだ」
「やってきたのは人の乗る大きさの船ではないという。神々が訪れたに違いない」
「このためにレ・クテ島には島主がいなかったのだ」
噂には尾びれが付く。いつの間にか三島では、「来訪神がやってきた」という話が広がっていた。
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