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「ああもう、てめえらまじめに働きやがれ!」
ルハの怒号が響いたが、従う者はいなかった。みな、外から来た船が気になって仕方がないのである。それだけではない。敵の襲来かもしれないと食料をかき集める者、尊い存在であったときに貢物ができるようにと準備する者、描く者、拝む者など様々だった。
夜が近づいてきているが、今日の作業が終えられていない者だらけである。元々諸島民はそれほど真面目ではない。起こってしまったことは仕方がないので、今日できなかったことは明日すればいいと考える。そしてずっとできなければ、できなくてしょうがないことである。
「ああ、ルハ、ここにいたんだね」
ルハを見つけたテレプが駆け寄ってきた。
「お前も呑気な顔をしているな」
「僕はちゃんと、今日の分の仕事はしたよ」
「それが当たり前だ!」
「でも、あんなのが来たんじゃなあ。戦争にでもなったらたまらない」
「戦争になったって食うもんはいるんだ。作っとかなきゃ始まらない」
「はは、そうだね」
テレプは、突然後ろを振り返った。驚いたルハだったが、すぐにその理由が分かった。次第に皆が異変に気付き、地面に頭を擦り付けるようにして礼をする。
王の一行がやってきたのだ。
王に見られる前に、王の顔を見てはいけない。ナトゥラ諸島における、絶対の掟である。
人々が地面に視線を向ける中、王は声を張って言った。
「あの船には明らかに人々がいる。港には着けぬようだから、こちらから迎えに行くことにする。戦士、魔法使いたちは防衛に協力してくれ」
「はっ」
応えたのは族長である。族長と言えども、王に会うことは稀である。村人たちに威厳を示したい気持ちはあるものの、声は細かく震えていた。
王は、ゆっくりとその場を去っていった。本人はもう少し観察したかったのだが、王が去らないと皆が動けないのである。
「魔法使いたちはこちらに来るように」
王に使える魔法使いが、そう言って杖を掲げた。
「僕も行ってくるね。あんまり暴れるんじゃないよ、ルハ」
「アタシに指図するんじゃねえ!」
「ここからは男の仕事みたいだ。家に帰って大人しくするんだよ」
「はいはい。いつまでも夜中に遊びに出る子供じゃねえんだよ」
「ふふ」
子どもの頃のことを思い出して、テレプは微笑んだ。
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