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「外からの船とはねえ」

 四代クドルケッド王は、頬杖をついた右手の小指で唇をなでた。幼い頃からの癖である。

 ルイテルド島にいる王のもとに、「大きな船」の話はすぐに届くこととなった。レ・クテ島との行き来は諸島の中でも特に濃密で、緊急時には魔法を使った伝達も行われる。

「食料と水を用意するように。略奪などされてはかなわん」

 そう言うと、王は外出のため着替え始めた。人前に出るときの王の服装は決められている。厳かでありながら動きやすい、派手でありながら気品のある衣装である。王の威厳は族長をはるかにしのぎ、その姿を見かけた者は膝をついて頭を下げなければならない。そして王の見えるうちに、庶民は同じ道を歩いてはならぬのである。

 王は、体が弱く、滅多に外に出ることはない。「闇のお方」と呼ばれ、まだ姿を見たことのない諸島民も多い。たまに外に出れば、人々が神のように崇め奉る。王はそのことが心苦しく、できるだけ身分による違いをなくそうとしている。

 王は、木で編まれた美しい王冠を被らなかった。絵画に残されたものによると、三代アートゥル王までは被っていなかったことが分かったのである。70年ほどの間に出来上がった伝統と別れるべく、王は自慢の長い髪を露わにしたまま王級宮を出た。

 王の足取りはゆっくりとしている。先代までは余裕を見せるためのことだったが、現王にとっては精一杯の足取りだった。

「船の用意はできております。魔法使いは呼びますか?」

「そうだな。日が沈むまでには見ておきたい」

「承知いたしました」

 王の頭上には大きな傘が差され、わがままな陽光の攻撃を防いでいる。警備の者、見張りをする者、伝令の者水、筒を持つ者。多くの人々がぞろぞろと付き従っている。

 ルイテルド島一の大きな港、スド・ルイテルドに王が到着した。赤と黄色の曲線が複雑に入り混じった模様の船が一艘、準備されている。

「魔法使いが到着いたしました」

「三枚を」

「はっ」

 長い木の杖を持った魔法使いが、港に到着した。王の従者が駆けて行き、貝殻を割ったものを三枚渡す。「貝宝かいほう」と呼ばれる、ナトゥラにおける通貨のようなものである。貝宝は王から授けられるものなので、流通量は少ない。庶民はその詳しい価値はわからず、上流階級の間だけで使われている。

「畏れ多くも王のために、風の流れをお渡しします」

 魔法使いは目を閉じて、心の中でレルを呼び集めた。そして、目をかっと見開いて、杖を船に向けて振り下ろす。すると、いくつもの青い光が船の周りを渦巻き始めた。

「いつもながら見事なものだ」

「ありがとうございます。船を運び、船を守る風。ただし、島を渡れば消えてしまいます」

「十分だ。今夜はレ・クテ島に泊まることになる。私が戻るまで、他の者たちは島を渡らぬように。重要な報告があれば鳥を飛ばしてくれ。では、行ってくる」

 王の乗った船が、こぎ出された。何層もの船が続く。魔法の風によって、いつもの倍以上の速さで、船はレ・クテ島へと向かっていく。

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