1-2

「船だ!」

「でかいぞ」

「三艘もいる!」

 うとうとしていたテレプは、騒がしい声で目を覚ました。ナトゥラの人々はよく昼寝をする。暑すぎる時間にできるだけ体力を温存するためである。いつもならば、もう少しテレプは昼寝をしているところだった。

「何かあったらしい」

 家を出ると、海岸へと駆けている人々が何人もいた。テレプも向かう。

「何でこんなところに」

「どこの船だ?」

 沖の方に、マストを備えた大きな木の船が三艘浮かんでいた。レ・クテ島の人々は、船をよく使う。ただし、別の島との行き来は、島に一つの正式な港しか許可されていない。諸島の大きな船がこの村に来ることは、普通ないのである。

「まさか、外海なのか?」

「果てから来なさったのか?」

 人々のざわめきがだんだん大きくなる。

「はあ、これは驚いたなあ」

 テレプは、「これが原因だったのか」と思っていた。風の様子がおかしかったのである。

「皆の者、落ち着くのだ」

 低い、ゆったりとした声が響いた。人々が一斉に、頭を下げる。族長が来たのだった。

 顔には深い皺が刻まれており、顎髭は鎖骨に届きそうだった。魚のような丸い目が、人々を見渡した。

「族長、一大事です」

 一人の男が言う。族長を迎える者は決まっており、他の者は許しがなければ話しかけることはできない。彼はそこそこ偉い者だった。

「うむ、そのようだ。あれに似たものを見たことがあるか?」

「いいえ。これまで見たどのような船とも似ていません」

「あのような大きなものが浮かんでいるとは。人の仕業ではないかもしれないな」

 何人かが目を見合わせる。伝承を受け継ぐ者たちである。文字のないナトゥラの人々は、決まった家により伝承を語り継いできた。そのうちの一人が族長の前に出る。

「畏れ多くも、伝えさせていただきます。ナクィドの祖先とされる外の者は、質素な船に乗ってこの島にやってきたとされています。私たちのものとは形が違っていますが、あれらと違うことは確かかと」

「うむ、そうだろう。あれはむしろ、人ならざるものかもしれない」

 彼らは、外の世界にも人間がいることを知っていた。ナクィドというのは約200年前、この地に西から流れてきた人々の子孫である。また、伝承によればナトゥラの人々もかつては、ここよりはるか東の地にいたらしい。王の命により外海に調査に出かけ、大きな無人島に人のいた痕跡を見つけたという言い伝えもある。

 いつかは外から何者かがやって来る。それは人々の予想していたことでもあるのだ。

「しかし、あの大きさではあれ以上進めないかもしれません。ここの海は浅いですから」

「うむ。しばらくは待つしかないだろう。王にも報告をせねば」

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