リベンジイルミネーション【朝】
十二月二十五日。クリスマス。今日、紗奈と悠は、昼から港のクリスマスイベントに来ている。夜は港の大きな公園でイルミネーションも見る予定だ。
去年の終業式の日。この公園のイルミネーションで、二人は心を通わせた。しかし、人混みが苦手な悠を気遣って、イルミネーション自体は遠くからしか見ることが出来なかった。だから、今日はそのリベンジをするのだ。と、悠は張り切っている。
「じゃあ、今日は遅くなるから」
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「しっかり紗奈ちゃんをエスコートするんだぞ。悠」
両親に見送られながら、悠は気合を入れて家を出る。紗奈の住むマンションまで、紗奈を迎えに行く予定だった。
。。。
紗奈のマンションの前に着くと、悠は紗奈にチャットで着いたことを伝える。それから数分で、紗奈がエントランスに降りてきた。
「お待たせ!」
「メリークリスマス。紗奈」
「メリークリスマス! 悠くん!」
軽く挨拶を交わした後、紗奈が悠の首元をじーっと見つめて、言った。
「今日は普通の、黒いマフラーだね」
「え? ああ……。紗奈に貰ったマフラーは、人混みの中だと汚したり引っ掛けてほつれたりしそうだから」
今日の悠は、クリスマスらしいトナカイのニットにシンプルなグレーのコートを着ている。そして、首にはシンプルな黒のマフラーが巻かれていた。
「ふふ。大事にしてくれて嬉しい!」
「こちらこそ。紗奈、今日も可愛いね」
紗奈の服装は、紗奈好みの可愛らしいスタイルで纏まっていた。胸にリボンがついた模様編みセーターに、チェック柄のタイトスカートを履いている。その上に可愛らしいピンク色のコートを羽織っていて、紗奈らしい。と悠は思った。
「ありがとう。悠くんも、いつも通りかっこいい!」
「髪、今日はポニーテールなんだね。それに、俺があげたリップを使ってくれてる。今日の紗奈、すごく綺麗だよ」
去年のクリスマスデートの時も、告白をした際も、紗奈はポニーテールにしていた。それを思い出して、悠は懐かしい気持ちになる。
悠がそっと紗奈の髪に触れると、紗奈はくすぐったそうに髪を揺らした。
「ありがとう……」
照れた表情ではにかむ紗奈は、本当に可愛らしい。悠は愛おしそうに紗奈を見つめて、優しく微笑んだ。紗奈が好きな表情だ。
「行こうか」
「うん!」
髪から手を離した悠が差し出した手を、紗奈は嬉しそうにギュッと握る。去年の今頃は恥ずかしくてろくに手も握れなかったけれど、今日は固い恋人繋ぎをして歩いた。
。。。
イルミネーション会場である港の公園は、既に人で賑わっていた。紗奈が悠の方をチラッと見ると、悠と目が合う。
「大丈夫?」
「うん。これくらいなら平気」
悠はそう言うと、入り口に置いてあったパンフレットを紗奈に見せて聞く。
「紗奈はどこ行きたい?」
「えっとー……。あ、後でクリスマス限定の肉まん食べたいな!」
「ドーナツもあるよ。ほら、クリスマス限定のデコレーションドーナツ。あとクレープもクリスマス限定だって」
昨日と今日は、クリスマスイベントがあるのでイルミネーションだけでなく、買い物目当てで来ている人も多くいる。食べ物だけでなく、雑貨屋も衣服屋も、クリスマスイベントで抽選だったりセールをしているのだ。
「とりあえず、お店回ってみる? 去年も行った雑貨屋さん、クリスマス限定でシークレットボックスが販売されてるんだって」
「え、買いたい!」
紗奈がワクワクした顔でそう言うから、悠は思わずクスッと笑みを零した。
「言うと思った」
悠はそう言って、改めて紗奈の手をしっかりと握り、会場から少し離れた場所にあるビルに入る。店がいくつも入っているお洒落なビルだ。
「あ、あの服。悠くんに似合いそう」
「え? 俺?」
悠は身長が高くてスラッとしている。紗奈が指さした服は、そんな悠のスタイルが引き立つシンプルなニットだった。
「悠くんはかっこいいから何でも似合うけど、一番似合うのはスタイリッシュな服かなーって」
「そう? じゃあ、次のデートの時はそういう服を着てみようかな?」
「んふふ。楽しみ!」
「そういう紗奈は、やっぱりああいう可愛い服が似合うよね。袖口がふんわりしてるのとか、リボンとか」
紗奈好みの服が置いてあるレディースの衣服屋。そこのマネキンを指さして、悠は言う。
「でも、やっぱり紗奈にはピンクの花が似合うかも。俺が抱く紗奈のイメージなんだけどね」
「嬉しい。あのね、この前お花のワンピースを買ったんだけど、生地がちょっと薄いの。春になったら着るから、楽しみにしてて欲しいな」
「うん。凄く楽しみだ」
想像の時点で可愛らしいから、悠は紗奈のワンピース姿をとても楽しみにしている。早く暖かい時期が来ないかなあ。と、悠は想像に期待を膨らませた。
「あ、この雑貨屋だ」
本日の目玉商品だからだろう。雑貨屋の入口付近にシークレットボックスが置いてあって、すぐに分かった。大きなカゴの中に沢山入っているのだ。箱の大きさで値段が変わるらしく、一番安いもので千円。高いものが一万円もするらしい。
学生である紗奈と悠の二人は、一番安い千円のボックスをひとつずつ買った。
「せーので開けよ?」
「ふふ。いいよ」
テープまでは剥がしておいて、紗奈の合図で同時に箱を開くことにした。
「せーのっ」
箱の中身は、残念ながら二人ともお菓子の詰め合わせで、ハズレ枠のものだった。当たりならば千円の箱でも一万円相当のものが入っているらしいので、密かに期待をしていたのだ。
「残念だな」
「残念だけど、悠くんと同じものが入ってたからいっか」
「ハズレのお揃いって嬉しい?」
「私は嬉しいよ」
紗奈は本当に嬉しそうな顔をして笑うから、悠にもその気持ちが移った。可愛い紗奈の笑顔が見れたから、この箱は悠にとっては当たりの箱になったのだった。
。。。
暫くお店の中を回っていると、少し小腹がすいてきた。
「屋台で何か食べようか?」
「うん!」
公園の方へ戻って、二人は食べ物の屋台を回る。
「何が食べたい? さっき言ってた肉まん?」
「うーん……。悠くんは?」
「俺も悩み中。ドーナツも美味しそうだし、寒いから肉まんで暖まるのもいいしなあ」
せっかくクリスマスに来たのだから、限定商品を食べたい。それだけは決まっているのだが、どの店の商品を食べるのかが決まらない。
「クレープのチェリーソースは美味しそうだし、ちょこんとはみ出してるサンタさんのウエハースも可愛いよね」
「迷っちゃうよな」
散々迷った結果。肉まんは二人でひとつを買って、紗奈はクレープ。悠はドーナツをひとつずつ買った。
「割る前にお写真撮りたいな」
「うん。紗奈、ほら。こっち向いて」
紗奈は悠に言われて、トナカイデザインの肉まんを両手に持ち、写真に向かってニコッと笑った。
「ふふ。可愛い。後で送るね」
「悠くんも、クレープとドーナツ持ったまま写真撮ろ? 私、悠くんの写真も欲しいの」
紗奈はそう言って、少しだけ照れくさそうにはにかんだ。悠は紗奈に強請られると弱い。紗奈に言われるがままポーズを取って、写真を一枚撮った。
「えへへ。ありがとう」
「イルミネーションの時は、ツーショットも撮りたいね」
スマホを眺めながら、紗奈はポッと頬を染めて言う。本当に可愛らしい彼女だ。と、悠は紗奈を見て微笑んだ。
「そうだな」
悠の優しい声を聞いて恥ずかしくなったらしく、紗奈が慌てて肉まんを差し出した。
「あ、温かいうちに食べなきゃ。トナカイさん、可哀想だけど半分こにして食べよ?」
「ふふ。うん。そうだね」
慌てる紗奈を見て愛おしそうに笑いながら、悠は半分に割ってくれた肉まんを受け取る。それを口に含んで、温かさと幸せを感じるのだった。
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