初めてのお泊まり【朝】
※今回、性的描写はないのですが、ほのめかすセリフやシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
タイトルに朝と書きながら、夜から始まります(笑)
悠もお風呂からあがって、少しの間リビングでテレビの続きを見てまったりする。番組は動物番組のままだ。
「面白かったあ」
エンディングが流れてきたらやっと、テレビを消して悠の部屋に向かう。部屋についたら、クッションを抱きしめて本を読んでいた時と同じポジションに収まった。
「ねえ、紗奈。お願いがあるんだけど、いい?」
紗奈に緊張が戻ってきた頃だったので、悠のお願いというものがどういうものなのか、紗奈はドキドキしながら聞き返した。
「な、なあに?」
「写真、撮ってもいいですか?」
「しゃ、写真……?」
紗奈はきょとんとして、悠を見上げる。
「うん。
一学期。一番最初の学校行事は、クラスの親睦を深めるための合宿だった。紗奈と同じ班の藤瀬
「女子とはいえ、俺が持ってない紗奈のそういう格好した写真を持ってるのはずるい……」
「はわ……」
紗奈はほんのりと頬を染めて、その頬を両手で包む。美桜を羨む悠の表情がなんだか可愛らしくて、紗奈の心をくすぐったのだ。
「藤瀬さんには撮らせたのに、俺は駄目?」
悠が追い打ちをかけるかのごとくあざとい顔で首を傾げて、紗奈を見つめた。紗奈の頬がまた一段階鮮やかに染まる。
「駄目じゃないよ……?」
「本当? やった」
悠は嬉しそうに笑い、スマホを操作する。
「でも、悠くん」
「ん?」
「私だけ撮るのは恥ずかしいから、悠くんも撮らせてね」
紗奈がモジモジとしているので、悠は本当に恥ずかしいんだな。と思い、素直に頷いた。
「初めての泊まりだし、ツーショットでも撮る?」
悠がそう聞くと、紗奈はパッと明るい表情を見せた。ツーショットなら恥ずかしくないし、寧ろ撮りたいと思ったからだ。そんな表情の変化が可愛いくて、悠はクスッと笑みを零す。
「じゃあ、撮ろ」
そして、内カメラにしたスマホを構えて紗奈の肩にピッタリとくっつく。上手い具合に二人の姿がスマホ画面に写っている。
「あんまりこうやって二人で撮ること、ないよね」
「そうだね。ふふ。こういうのもいいね。また撮ろう?」
「ふふ。そうだな」
暫くはお互いにスマホを触っていたのだが、夜も随分と老けてきた頃だ。
「そろそろ寝ようか」
と、悠が声をかける。
「うん……」
リラックスしながらスマホを眺めていた紗奈だが、声をかけられてやはり緊張してきてしまった。悠と同じ布団で寝るのは初めてだ。紗奈はゆっくりと悠のいるベッドに近づき、ちょこんとベッドの端っこに座った。まるで借りてきた猫のようだった。
「ふふ。紗奈が嫌がるなら、何もしないよ。寝れなくなりそうなら、別で布団を用意する?」
悠は優しい表情で紗奈の頭を撫でてくれる。それだけで紗奈の緊張が和らぐから、悠の手は不思議だ。
「ううん。悠くんと一緒がいい……」
紗奈はそう言って、ポスッとベッドに寝転んだ。悠の匂いが弾ける。
「緊張するし怖いけど、嫌じゃないから…………」
悠の裾を小さく握って、紗奈は小さな声で言う。悠はもう一度紗奈の頭を優しく撫でてから、「そっか」と、これまた小さな声で呟いた。
。。。
翌朝、紗奈は冬の朝の寒さに「うーん」と唸って、モゾモゾと布団の中に顔まで埋めてからゆっくり目を覚ます。
「ん……」
紗奈は布団から顔を出して、キョロキョロと辺りを見回す。昨日は悠の家に初めて泊まったのだった。
「悠くん……?」
しかし、肝心の悠はベッドにはいなかった。
「あ、起きた?」
悠はちょうど部屋に入ってきたところだったらしく、ドアの方から顔を覗かせて、紗奈が起きているのを確認してから近づいてきた。
「おはよう。紗奈」
「おはよう。悠くん」
彼氏の部屋で朝を迎えるというのは、何とも不思議な感覚だった。いつもの駅ではなく、悠の部屋で朝の挨拶をするのも、なんだか照れくさくて、でも嬉しくて、暖かい気持ちになった。
「朝ごはん、ベーコンと目玉焼きくらいしかないんだけど……。ごめんね。こんなのしか作れなくて」
それを聞いて、紗奈は時計がある壁を振り返る。朝の八時頃だった。日曜日だからといって、この時間は遅い。学校のある日なら遅刻してしまう時間だ。
「ううん。私こそ、悠くんが作ってくれてる時も寝てたなんて……」
紗奈が慌ててベッドから出ようとすると、悠の方が逆に焦ったような声を出す。
「あっ、紗奈。そんなに急いで起きなくても……」
何故悠が慌てるのだろうか。紗奈は首を傾げながら、身体を動かす。
「いたっ」
立ち上がろうとした紗奈の身体がズキリと痛み、ベッドにポスンと身体を戻してしまった。
「はぇ……?」
紗奈は驚いた顔でそのまま固まっている。
「大丈夫? ご飯、運んでこようか?」
悠が慌てて紗奈の傍に駆け寄って、跪く。紗奈の背に優しく手を添えて、顔を覗き込んだ。
「ううん。大丈夫。びっくりしただけだから」
放心していた紗奈が、悠の心配する表情を見て首を横にふった。
「でも、昨日無理させちゃっただろ……?」
紗奈は心配してくれる悠の顔にソッと手を添えると、ニコッと笑いかける。
「本当に平気! 朝ごはん、作ってくれてありがとう。楽しみだなあ」
そう言うと、紗奈はスっと立ち上がる。足取りはいつもよりもゆっくりだったが、普通に歩けているようだ。
「無理しなくていいからね」
「うん。ありがとう」
。。。
ご飯を食べ終えた後、紗奈と悠は悠の部屋に戻って学校の宿題を進めた。
「うーん……。こんな答えにならないと思うんだけどなあ……」
「どれ?」
「これ。綺麗に割り切れると思うんだけど……どうしても変な数字になっちゃうの」
紗奈がやっているのは数学の宿題。副教材のドリルを解いている。悠は紗奈の指さした問題を見て、すぐに間違った箇所を見つけた。
「これ、代入する数字が違うよ。ここまでは合ってて……。で、この式から間違ってる」
「えっと、やり直してみる!」
紗奈は途中から計算をやり直す。今度は綺麗に割り切れた。
「できた! -2!」
合ってるかな? と、紗奈は悠を振り返る。
「うん。俺と同じ答え。でも、答えは等式で書かなきゃ減点されるよ?」
「うん。大丈夫」
その後は、スラスラと宿題の続きを終わらせることが出来た。が、勉強は続いている。もう少しで二学期末のテストがあるのだ。
「今回、地理があるんだよね……」
「そう言えば、社会が苦手なんだっけ?」
「うん。歴史も苦手なんだけど、地理はもっと苦手なんだ。だから、テストの前はいつもお父さんが社会を重点的に教えてくれるのよね」
紗奈の父親である真人は大学教授だ。理学系の学科を担当していて、専門分野は化学らしいのだが、中高生の内容くらいなら、どの教科でもある程度は教えられる。との事だった。そのため、紗奈はいつも父に勉強を見てもらっている。
「強力な味方だね」
「うん! お母さんも、高校生の時によく教えてもらってたんだって」
「ふふ」
紗奈が家族の話をする時は、いつも嬉しそう。とても仲のいい家族なのだろう。と悠は話を聞く度に和んでいる。今日も、紗奈の満面の笑みを見つめて微笑んでいた。
。。。
暫くすれば、勉強への集中力は完全に途切れてしまう。紗奈は悠に借りた教科書から目を離して、ジーッと悠の姿を見つめた。
「ふふ。紗奈、勉強飽きたんだろ」
「えへへ……。うん。」
紗奈は誤魔化すように笑って、しかし素直に頷いた。
「だからって、そんなに見つめられると照れくさいけどね」
悠は照れくさそうにはにかんで、紗奈を見つめ返した。紗奈の頬がほんのりと赤く染まる。
「部屋着姿の悠くん、昨日が初めてだったから。もっと見てたいなーって思って」
「それはお互い様でしょ」
紗奈の集中力はとっくのとうに切れていたのだが、悠も紗奈に見つめられ、逆に紗奈の可愛らしいピンク色の部屋着姿を見ていたら、もう勉強になんて集中出来なかった。
女の子らしいピンク色に、白の水玉模様が描かれている。モコモコとしたワンピース型と、暖かそうな長ズボンの部屋着兼寝巻きである。
「悠くん、そっちに行ってもいい?」
小さなテーブルに向かい合って座っていた紗奈が、ソッと近づいてきた。
「もう来てるじゃん……」
「だって……」
「まあ、断る気は無いけど」
「うん」
悠が優しく撫でてくれるから、紗奈はもっと悠に甘えたくなって、ピッタリと悠にくっつく。
「身体……。まだ痛む?」
「ううん。朝はちょっと変な感じだったけど、今は平気だよ。悠くんが気を遣ってくれたおかげだね」
紗奈はそう言って、可愛らしくはにかんだ。
「そっか」
悠はほっと安心して、ふんわりと綺麗な笑顔を見せてくれる。
「お昼ご飯、食べたら家まで送るよ」
「ありがとう。朝は悠くんが作ってくれたから、お昼は私に任せて!」
紗奈はそう言って、自分の胸をトンと叩く。
「うん。楽しみ」
紗奈と悠は、家を出るその時までゆったりとリビングで過ごすのだった。
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