義人の誕生日【後編】
待ちに待った土曜日。今日は義人の誕生日だ。悠は早めに紗奈の家にお邪魔して、真人と一緒に室内を飾り付けた。
「ごめんね、悠くん。手伝って貰っちゃって」
真人が折り紙で作られた飾りを天井につけながら、申し訳なさそうな声で悠に言う。
「いえ。全然いいですよ。こういうの、新鮮で楽しいですし」
悠は壁の模造紙に折り紙を貼り付けて、楽しそうに返事をした。
「楽しんでくれてるならいいけど……。あ、模造紙に絵を描いてくれてもいいんだよ?」
「いや、それはちょっと……。俺が絵下手なの、知ってるじゃないですか」
「あはは」
悠は学校でも、基本的には成績優秀だ。しかし、美術だだけはどうしても上手くいかないのだった。
「もう。酷いですよ」
悠は照れくさそうに眉を寄せて、ペタペタと折り紙を貼り付けていった。
「俺が唯一得意な星なら描きますけど」
「サインに星があるんだっけね。黄色のマーカー使う?」
「ありがとうございます」
悠が模造紙に星を散りばめ終えたところで、ちょうど玄関の開く音がした。
「「ただいまー!」」
「「お邪魔しまーす!」」
紗奈と義人が、零と佳奈を連れて帰って来たようだ。子どもたちは紗奈の誘導で手洗い場に向かい、由美が作った料理をリビングに運び終えたところで全員がリビングに揃った。
「いらっしゃい。来てくれてありがとうね」
真人がニコニコと挨拶をすると、零と佳奈は緊張気味に挨拶を返した。
「こんにちは!」
「お邪魔します!」
「うん。たくさん料理を作ったから、ゆっくりしていってね。後でケーキもあるから」
「「はーい!」」
元気よく挨拶をした二人は、義人のそばにササッと移動して、義人を真ん中に挟んで座った。
「揃ったことだし、義人のお誕生会始めましょうか。みんなは飲み物、何がいい?」
「あ、私も手伝う」
由美と紗奈が積極的に動いて、全員に飲み物が行き渡る。
「義人。誕生日おめでとう!」
「「乾杯!!」」
それぞれを飲み物を手に取って乾杯をしたら、今度は好き好きに料理をお皿に移して食べ始める。
「義人の母ちゃん
「あら。ありがとう」
子どもの純粋な言葉に、由美は嬉しそうにデレデレと頬を緩めた。年齢としては、零や佳奈の母親よりも歳上だ。若く見えるだけでもう、そこそこの歳なのだが、褒められればやはり嬉しい。
「……ゆーくんとお姉さん、結婚したの?」
佳奈の質問に、悠と紗奈は飲んでいたジュースを吹き出しそうになってしまう。
「えー……?」
「あわわ…そ、そんなのまだ早いっ……!」
悠は困惑して佳奈をガン見し、紗奈は狼狽えながら頬に両手を当ててくねくねと身体を揺らした。
「なんでそう思ったの?」
「一緒の家にいるから……。住んでるんじゃないの?」
佳奈は無邪気に首を傾げてそう聞いた。
この子には本当に驚かされる。悠はそう思いつつ、隣に座っているので佳奈の頭をくりくりと撫でてやった。
「してないよ。俺も佳奈ちゃん達と一緒でお呼ばれ。もうちょっと大人にならないと結婚できないしね」
「もうチューした?」
「こら。相変わらずませてるな。君は……」
紗奈が悠の隣で恥ずかしそうに唇を押さえるので、悠は途端に照れくさくなり、飲み物を口に含む。そして飲み込むと、「んんっ」と咳払いをした。
「そういう野暮なことは聞くもんじゃないの!」
「はーい……」
佳奈は素直に返事をしているが、紗奈の顔を見てニヤニヤしている。きっとバレているのだろう。と悠にも伝わって、やはり照れくさかった。
「ほら。お話ばっかりしてないで、ちゃんと食べなよ。美味いぞ?」
「うん! この唐揚げとっても美味しい。ポテトも好きー!」
それを聞いた由美と紗奈が嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべる。親子だけあって、とてもよく似た笑顔だった。紗奈は本当に様々な部分が母親似である。
「他にも何かとってやろうか?」
「じゃあ、あのカラフルなご飯がいい」
ちらし寿司の事だ。玉子やいくら、まぐろ等の子どもが好きそうな海鮮がたくさん散りばめられている。色をカラフルに見せているのは、ちょこんとのっている青じそだろう。
「はいよ。量はこんなもんでいい?」
悠が甲斐甲斐しく世話を焼いている。それを見ていた義人と紗奈が、少しだけ羨ましそうにしていた。流石に紗奈は妬いたりしないが、義人の方は違うようで、プックリと頬を膨らませている。
その顔が紗奈のむくれた時の顔にそっくりで、悠はつい笑ってしまいそうになった。
「?」
「何でもない。はい、どうぞ。よく噛んで食べろよ?」
「うん! ゆーくん、ありがとー」
ご飯を食べ終わったら、ケーキが出てくる。由美がカーテンを閉めて、真人がロウソクに火をつけた。そしたら定番のバースデーソングをみんなで歌う。
「ふーっ」
歌い終わったと同時に、義人がロウソクの火を上手く吹き消す。
「「おめでとー!!」」
「みんな、ありがとうっ!」
由美が電気をつけてくれたので、今度はカーテンに近い悠が部屋に光を戻した。紗奈が立ち上がる前にササッとカーテンを開いて戻ってきた悠に、紗奈は笑顔でお礼を告げる。
「ありがとう。悠くん」
「うん」
ケーキを切り分けてみんなで食べたら、後はプレゼントを義人に渡す。義人はさっきからずっと可愛らしい笑顔を浮かべているので、反応が楽しみだ。
「はい。義人! これ、|オモシロ消しゴムな。恐竜のやつ。かっこいいだろ!」
「私はこれ。お母さんと作ったのよ!」
まずは子どもたちが義人にプレゼントを渡す。早く受けとって欲しいのか、押し付けるようにグイッと義人の目の前にプレゼントの包みを持っていった。
「佳奈ちゃんの、なあに?」
「しおりよ。義人ってしおりわかる?」
「知ってるもん。本に挟むやつ! ありがとお」
ビーズで作られているしおりで、柄は車だ。おそらくデザインは佳奈の母親だろう。
義人は大事そうに貰ったプレゼントを抱え、二人にお礼を言う。お礼を伝えられた二人も嬉しそうだ。
「じゃあ、これはお姉ちゃんからだよ。サッカーボールなの」
「本当!?」
「いいじゃん。義人! 明日サッカーやろうぜ!?」
義人が目を輝かせ、零もそれに釣られてキラキラと義人を見つめた。早速ボールで遊びたい義人は、ジーッと真人を見つめて物欲しそうにしている。
「うん、いいよ。明日、すぐそこの公園で遊んできな」
「うん! 零くん、佳奈ちゃん。明日遊ぼー」
「おうっ!」
「仕方ないわねえ。私もサッカーしてあげる」
三人の会話が終わると、次は悠がプレゼントを義人の前に差し出した。
「俺からは靴だよ。紗奈がサッカーボールだから、この靴でサッカーするといい」
「ありがとう。にーに! 明日使ってもいい?」
「家の近くの公園だし、いいと思う。新しい靴はまだ足が慣れてないから、遠くには遊びに行くなよ?」
「はーい!」
義人がいい返事をする。それを横目にクスクスと笑って、真人と由美が言った。
「俺達からのプレゼントはもう知ってるよな」
「私達からはさっきも見せた自転車よ。練習して上手に乗れるようになったら、真人が補助輪を外してくれるから」
「うん! 自転車も乗れるように頑張る」
プレゼントの包みを大事そうに抱えながら、義人はニコニコと改めてみんなにお礼を伝える。
「ふふ。帰りは少し遅くなっても送っていくから。義人の部屋にでも行って好きに遊んでおいで」
義人は子どもたちと、ついでに子どもたちに気に入られている悠を連れて、義人の部屋に行ってしまう。
「悠くん、連れていかれちゃった」
「あらまあ。それじゃ、片付け手伝ってくれる?」
「うん」
義人の誕生日は、こうして楽しく過ぎていった。
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