義人の誕生日【中編】

 義人の誕生日は月末の土曜日だ。紗奈は義人の誕生日があるその週の部活休みの日に、悠を誘ってプレゼントを買いに行くことにした。


「デパートでいいかな?」

「うん! 悠くん。急に義人くんの誕生日に来てくれることになったけど、迷惑じゃない?」

「うん。迷惑なわけないよ。義人は俺にとっても可愛い弟みたいなものだし」


 悠は紗奈がもちろん一番に好きだし、一番可愛いと思っている。しかし、「にーに」と呼んで慕ってくれる義人の事も可愛くて可愛くて仕方がないのだった。


「義人くんは天使みたいに可愛いもんね」


 紗奈も義人を溺愛している。普段の義人を見ていれば、その理由が悠にもよく分かった。


「あ、そうだ。あのね、義人くんのお誕生日には、義人くんのお友達も二人来てくれることになってるの。それでも大丈夫?」

「うん。もしかして、零くんと佳奈ちゃんかな?」


 義人の友達とは、悠も以前に会ったことがある。紗奈を家まで送り届けたその帰りの事だった。公園の前で義人に呼びかけられ、義人と一緒に遊んでいた子ども二人とも知り合ったのだ。


「あ、知ってる? 私も数回会っただけなんだけど、明るい男の子に可愛らしい女の子だったわ」

「小一にしてはちょっと大人びてるよな。特に佳奈ちゃん……」


 佳奈との会話を思い出し、悠は小さく笑った。それにつられて、紗奈もクスクス笑った。


「何を買うつもりなの?」

「うーん……。義人くん、最近はサッカーにハマってるみたいだし、サッカーボールとか考えてたんだけど」

「へえ? そう言えば、この間家に行った時もボールを持ってたな。小さいゴムボールだけど」


 悠が思い出しながらそう言うと、紗奈もボールで遊ぶ義人の姿を思い浮かべながら言った。


「そうなの。確か、神社の夏祭りで取った景品だったかな」

「そっか。いいじゃん。サッカーボール」

「じゃあ、やっぱりサッカーボールにしようかな! 悠くんはこっちが無理に誘っちゃったんだから、気を遣わないでね。安いお菓子なんかでいいのよ?」


 紗奈は心配そうな顔でそう言ってくれるが、悠としても、可愛い弟分の誕生日をきちんとお祝いしてやりたい気持ちだった。じっくり悩んでプレゼントを決める予定だ。


「気にしないでよ。俺もかなり楽しみにしてるんだぜ? 義人の誕生日」

「そう? ふふ。ありがとう!」


 デパートに着いたら早速、紗奈が買うと決めたサッカーボールを買いに行った。大きめの袋に青いリボンをつけてもらい、紗奈は満足そうにそのプレゼントを大事に大事に、別の袋にしまった。


「悠くんはプレゼントもう決めてたりする?」

「まだ。俺は兄弟いないし、従姉妹は一歳差の女子だし。年の離れた男の子の誕生日プレゼントって結構悩むな」


 悠は自分が小さい時のプレゼントを思い浮かべるが、思いつくのは結構小洒落て高級そうなものばかりだった。悠が義人と同じ年齢の時には既に子役として活動していて、祝ってくれる人達も大人の方が多かった。彼らはメディアで取り上げやすいブランド物や見栄えの良いものばかりをくれた記憶がある。


 参考にはならないなあ。そう思いつつ、悠はとりあえず子ども向けの玩具やキャラ物文具等が置いてある階に紗奈を連れて向かった。


「そう言えば、あれまだ好き? ヒーロー特撮の……」

「んーと、昔ほど熱心ではないけど、毎週見てるよ。悠くんがくれたぬいぐるみを抱っこしながら」

「へえ。それは嬉しいな」


 悠は一度だけ、義人と二人で出かけたことがある。その日の目的も誕生日プレゼントだった。紗奈の誕生日プレゼントを買いに義人と出かけたのだ。その帰り、時間が余ったのでゲームセンターに寄った悠が、義人が欲しがった戦隊ヒーローのぬいぐるみを取ってあげた。今も大事にしてくれているようで嬉しい。


「悠くんも小さい時、ヒーローとか好きだった?」

「うーん……。俺の場合、父さんが悪役で出てたからなあ。逆にちょっと嫌だったかも」


 悠はそう言って苦笑する。むしろ今の方が不快感なく見れそうだ。と思った。


「そっか。自分の大好きな人が悪役だと、確かにちょっと嫌かも」

「だろ? 演技なのは分かってるんだけどね。やっぱりヒーローに倒されるシーンとかは、子ども心に物悲しい気持ちになったな」


 ちょうど戦隊ヒーローのフィギュアが置いてあるコーナーに差し掛かったので、悠はヒーローではなく悪役のフィギュアを手に取った。


「今見ると、悪役のデザインって結構かっこいいよな。ヒーローは赤とか青とかカラフルだけど、悪役って大抵が暗めの色合いで、ちょっと落ち着く」

「かっこいいって言われると、確かにそうかも。でも、私はやっぱり正義の味方が好き」


 紗奈は戦隊ヒーローのリーダーであるレッドのフィギュアを手に取って、クスクス笑った。


「紗奈がヒーローなら、可愛らしいピンクかな」

「えへへ。ありがとう」


 紗奈の笑顔に癒されてから、悠はそろそろ本格的にプレゼントを何にするか考える。このままでは、ただ普通に楽しいだけのデートになってしまう。


。。。


 キッズ向けの物品が売っている階を色々見て回って、二人は今キッズファッションのコーナーにいる。


「どうしようかな」

「今、三択だっけ?」

「うん。待たせてごめんね」


 悠が迷っているのは、寒くなってくるのでコートやマフラー等の防寒具。子ども用のかっこいい腕時計。それから、運動靴だ。この三つのどれにしようかで迷っている。

 

「ううん、いいのよ。うちの弟のために悩んでくれてるんだもん」


 紗奈の優しさに甘えつつ、悠はじっくりと悩んだ。


「うん。決めた」


 やっと買うものを決めたので、悠は紗奈をこれ以上待たせないようにササッと会計に行ってくる。


「ありがとう、紗奈」

「ううん。買えてよかった」

「喜んでくれるといいなあ」

「義人くん、悠くんの事大好きだもん。なんだって喜んでくれるよ」


 土曜日を楽しみにしながら、二人は帰り道を歩くのだった。

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