女同士の闘い【中編】

※前回に引き続き注意喚起です。今回、大怪我をするようなものではありませんが、軽度な暴力的な表現があります。ご注意ください。




 一方、紗奈はいつの間にか机に入っていた手紙を読んで、校舎裏に来ていた。


 呼び出しの理由は何となく、告白なのだろうと予想がついている。返事は既に決まりきっているので、紗奈はすぐに教室を戻ることを想定して、悠には声をかけずに、短いチャットメッセージだけを送ってここに来ていた。


「やあ、呼び出しに応じてくれて嬉しいよ」


 校舎裏に来たのは、紗奈が文化祭の時にハッキリと拒絶を示した相手、山寺桐斗だった。


 桐斗は一般的に見て整った容姿をしている。紗奈にとっては悠が一番だが、桐斗が見る人を魅了するイケメンである事も理解はしていた。しかし、桐斗は自分の容姿に絶対的な自信を持っているが故に失敗もした事がなく、世界は自分中心に回っていると勘違いをしている男子であった。


 そんな彼は紗奈を自分の所有物のように考え、紗奈と距離の近い悠を見下して嫌味を連発させていた。そんな性格が紗奈とは決定的に合わず、悠を傷つける彼を嫌ってすらいたのだった。


 だからこそ、文化祭で悠と紗奈の関係が全校生徒に周知された後に、今までの事は許さない。と決別する意思を示したのに……。


「山寺くんだったの? 私、山寺くんとは何も話すことがないと思うわ」

「つれない事を言うなよ。以前のことは申し訳ないと思っているよ? だけど、やっぱりいくら考えてもこの俺に相応しいのは君しかいないと思うんだ」


 自信満々にそう言ってのける桐斗に、紗奈は眉を寄せて嫌悪の色を示した。

 

「私はそうは思っていないけど。相応しいとか相応しくないとかじゃなくて、相手を好きかどうかで考えたらどう? 恋人も友人も、あなたのアクセサリーじゃないのよ」


 紗奈は毅然とした態度でそう言って、更に口を開く。


「それに、相応しいかどうかと言うより相性の問題だけど、私と山寺くんは合わないと思うわ。私、山寺くんのそう言う態度が嫌いなの」


 桐斗を強く拒絶した後、紗奈は「ごめんなさい」と一言だけ伝える。そのまま教室に戻ろうとした紗奈に、桐斗はこう言った。


「今、教室には小澤くんと真梨瑠が二人きりでいるはずだ。君が信じている彼だって一人の男。目の前に抱ける女がいると分かったらどうなるか分からないだろう?」

「どういう事?」

「分からない? 真梨瑠は小澤悠が好きなんだよ。彼女はある意味では俺よりも過激だ。身体を使ってでも彼を落とそうとするだろうね」


 紗奈はそれを聞いて、怒りを顕にする。急いで校舎に戻って、階段を駆け上がる。悠が真梨瑠に落とされる心配なんてしていないが、悠に迫ったという事実だけで、紗奈はムカムカとした気分になった。ましてや、悠はそうやって迫られるのはきっと苦手だ。紗奈はそれを確信している。


 悠は紗奈と付き合う前まで、自分の容姿を褒められることすら嫌っていた。幼い頃から人目を引く容姿のせいで、中身を見てもらえることがあまりないと感じていた。綺麗な容姿に誘われて、性的な悪戯をされた事もある。


 そんな悠が、身体を使うだなんて卑怯な手で、浅くて脅しとも取れる関係を築こうとする女を拒絶しないわけが無い。苦手としないはずがないのだ。


「悠くん!」


 紗奈が急いで教室に戻ると、はだけた状態の真梨瑠と、壁に追いやられて青い顔をしている悠がそこにいた。


 紗奈はスタスタと無言で歩いて、悠と真梨瑠の間に入る。


「私の悠くんに手を出さないで!」


 バッと両手を広げて、紗奈は後ろの悠を庇うように立っている。さながらヒーローのような立ち姿だ。


「そ、それにっ。そんなはしたない格好……。へ、変態っ!」


 紗奈は真梨瑠のはちれんばかりの胸元を見て、顔を赤くした。守る姿はかっこいいヒーローのようなのに、そう言う初心なところは可愛らしい。紗奈が来てくれたことで冷静になった悠が、そんな事を考えた。


「ははっ」


 紗奈の真っ赤になった顔を見て、真梨瑠は見下すように笑う。悠に迫った時の様に、じわりじわりと紗奈に近づいてくる。


「紗奈に変な事するなよ」


 紗奈を庇ってやりたい悠だが、今は悠の方が紗奈に庇われている状態だ。声をかけることしか出来なかった。


「う。何よう……」


 紗奈の胸元を人差し指でなぞり、真梨瑠は更に嫌な笑みを浮かべる。


「その初心な反応。まだシてないんだろう? 私の方があんたより胸大きいし、経験もあるし、満足させられると思うけど?」

「なっ。誰が……」


 悠は紗奈にそんな誤解をされては堪らないと思い、反論に出ようとする。が、その前に紗奈の怒りが爆発してしまった。


パシンっ


「……え?」


 紗奈が真梨瑠の頬を叩いたのだ。叩かれた真梨瑠も、目の前で見ていた悠も、驚いて一瞬フリーズしてしまう。


「馬鹿じゃないの!?」


 ただ一人、紗奈だけは真梨瑠を睨みつけて、言葉を続けた。


「悠くんを満足させられるのは、この世で唯一、私だけなんだから! 悠くんが唯一愛してるのも私だけなの。あなたの入る隙なんてどこにもないのよ」


 紗奈の言った言葉に、真梨瑠はやっと動き出す。余程苛立ったのか、紗奈に反撃しようと手を挙げた。


「紗奈っ」


 紗奈が叩かれる。そう思った悠は、紗奈の腕を引いて間に入ろうとした。しかし、紗奈本人がそれを拒んだ。


「止めないでっ!」


バシッ


 紗奈は結局、真梨瑠に頬を打たれてしまう。これで一撃ずつ、おあいこだった。

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