第8話 旧縁を頼りに魔法を

──翌日……。

 今日も朝早くから、アスターさんから剣の指南を受ける事になっていた。


 最近聞いた話だと、更に小鬼の目撃情報が増えているらしく、その場所と言うのも……昨日、アイビーさんと一緒に話していたあの場所近辺らしい。

 一緒にいた彼女が少しというか、かなり心配になった。


 オリーブ製鉄に向かう途中の道で、昨日会ったアイビーさんのアスターさんに事を軽く話す事にした。


「昨日、アスターさんと散歩するって言って別れた後に、適当に歩いていたら近くの森に入ったんです。凄く綺麗なせせらぎの音と虫の鳴き声が聞こえて……引き込まれちゃって。さっき……魔物の目撃情報があったって言ってた場所です」


「用心してくれよ? 本当……。昨日は襲われてないか心配で夜も眠れて無かったんだからな?」


「机で寝てましたもんね……本当、帰り遅くなってすいません……。それで、その場所でとある女の人と出会って、凄く良い人だったんです。それで……その人は僕が帰った時もしばらく残ってるって言ってて。魔物から身を守れる、とは言ってくれましたけど……心配で」


 下を向きながら、ぶつぶつとこぼす様に僕は言う。

 アスターさんはこちらを見て少し笑うと、僕の肩を掴む。


「心配事ってのは大体当たらんもんだ! それでずーっとウジウジして貰ってても困るしな? だが、その心配の気持ちはこっちも骨の髄まで染みて来る……って事でまた会いに行ったら行ってやれ! 安心しろ、自分に自信のある女は強い!」


「はい……すいません……」


「なんで謝ってんだ? 何にも悪い事してないだろ? 人様への心配はどんな人間でもする!悪い事でも無い。そうだなぁ……今度からすいませんじゃなくて、ありがとうの方が聞いてて心地良いぞ!

 今は心配事忘れて! 強くなって、その女の人を魔物から守れるくらいにはなってやろうぜ? な?」


 そう言いながら彼は、豪快に笑ってみせた。

 正直、心配が完全に消えたって訳じゃないけど……。

 それでも今は気楽に行こう、と思えた。


─────────


 数分後、製鉄オリーブの裏の練習場に来た僕達は相も変わらず人形に剣を振るっていた。


「飯買ってきたぞ〜! 暇あったら食っとけ〜!」


「あっ、はい! すいまっ……ありがとうございます!」


「おっ、そこもちゃんと治そうとしてるな! 飲み込みが早い坊主は好かれるぞ〜?」


 この人の坊主呼びにも慣れてきたな……。

 そんな事を考えながら僕はまた呼吸をして、剣を人形に振り下ろす。


 正直、力が付いた感じも手応えもそれ程感じていないけど……少しづつ自分が変わっている様な気はしていた。


「そうだ、坊主! いきなりだが魔法に興味は無いか? 使えるとすんごい便利だぞ〜? 遠くからちまちま敵を攻撃したり……出来る事の幅と、戦闘の絵面が四割は豪華になる! あとは日常生活でたまに使える。この前のオイルランタンとかの火付けとかにな? 凄いだろ〜? まぁデメリットの方も中々……と言うか、かなり大きいけどな……」


「魔法……僕が使えるんですかね? 適性だとか何だとか必要なんじゃ…...」


「適性なんてもん無いぞ? どんな奴でも、覚えようとしたら覚えられるもんだ。ま、得意魔法とかは人によって違うし、時間はかかるが……」


 得意魔法……何か憧れちゃうな、それ。


「まぁ俺は魔法の専門家でも勉強してた訳でもないし、ぜ〜んぜん詳しく無いけど……。昔の仲間に詳しい奴が居るんだ。魔物退治のついでに、久しぶりに会いに行こうかなって思ってな。今住んでるのも、運良く案外近い場所なんだよな〜! しばらくして、坊主がちょっとでも剣の振りに納得したら一緒に行くか?」


「僕で良かったら、全然。魔法か……炎とか雷とか出せたりするのかな……」


「おっ! 興味湧いて来たか! 坊主くらいの年頃の奴は魔法に憧れるよな〜。ま、大体の奴が頓挫するんだが……。専門用語だ何だのが多過ぎて……頭痛くなっちまう。精神消耗、オーラ、詠唱、他沢山。訳がわからん! さっき話した…… 超が付く程、魔法に詳しい奴にそういうややこしいのを噛み砕いて教えて貰って、やっとだからな……」


 アスターさんはそう言いながら自分の頭をとんとんと叩き、口をとんがらせて空を見ている。

 いつも陽気で、飄々としてるアスターさんだけど、こんな人でも悩みや難しい事はあるんだな……。

 と、当たり前の事だけれどそう思った。


「よし、今日はこれくらいに終わりにしとくか! 相変わらず自力は足りんが……少なくとも技量面の筋は良くなって来てる! この調子で、最強の男にでもなっちまうか?」


「僕がそんなの無理ですよ……はは……。でも、ありがとうございます……」


「そんじゃ、一通り片付けてあいつの所行くか……。昼頃に話した俺の元仲間、魔術師のカーランって奴! そこで魔法でも覚えさせてもらえ」


 魔術師……!随分と凄い人と知り合いだったんだな、アスターさん。


「カーランは面倒見が良いトコあるから、口では渋々でも絶対了承してくれる! あと金にがめつい女だから金でも渡せば受けてくれる」


「金にがめついんですね……」


「そう、めちゃくちゃがめつい。カーランはコスモの外れ辺りに住んでる! やっぱりこの街、住み心地良いんだろうなぁ……ま、辺境すぎて知ってる人も中々居ないけどな……。俺も定年でも迎えたら、家でも買って住んでみるか!」


「僕も帰れなくなったら、ここに住みたくなって来ましたよ……最悪の未来ですけど……」


「そう悲嘆にくれるなって、例え戻れなくても住めば都って奴だ! 戻れなくても、この世界に慣れるまでは剣の面倒見てやる! それと、案外教えるってのも楽しいからな! 坊主には感謝してる!」


 彼は照れくさそうに笑いながら、いつもの様に僕の頭をくしゃくしゃにしながら撫でる。

 アスターさんに髪の毛ぐしゃぐしゃにされるのも、なんか慣れて来たなぁ……それと一緒に、こんな僕に感謝してくれたと思うと心の底が温かくなった気がした。


 僕達は昼寝をし続けているクロッカスさんを尻目に、アスターさんの元仲間だと言うカーランさんの家へと向かった。

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