第二十六話 密会
ルキフグスの心象結界崩壊から数分前、海上学園都市アトランティス機械科塔、管制室。アトランティスには悪魔や魔物による被害をいち早く察知する為の機関がある。それが機械科である。
機械科の察知能力の主な仕組みは日本全土に張られた結界を通じて悪魔が常世から出現した際に漏れ出す魔力を感知する。そして機械科の仕事は結界内部で起こったことへの対応である。
「今日も結界に異常は見られませんね」
「馬鹿、気を抜くな。悪魔がいつ現れるかもしれんのだぞ」
皆、一時の平穏を謳歌していた。
ー理事長室ー
「…」ピクッ
日本全土に結界を張り巡らせている人物はモーガン・エインズワース理事長である。結界術のエキスパートである彼は結界内で起こったほぼ全ての出来事が分かる。
ー心象結界崩壊後の管制室ー
緊急事態発生のアラートが鳴り響いていた。
「馬鹿な!予兆なんてものがまるで無かったぞ!!」
「魔力量B、B+、A尚も上昇中」
「落ち着け!すぐに派遣できる魔術師を集めろ!対応が遅れた以上民間人への被害を最小限にする!」
「クソ、毎回対応が後手に回り過ぎなんだよ。おい誰か理事長呼んで来い!」
ー理事長室ー
理事長室を飛び出し走る。美琴の元に通じる通路の扉へと。
(自分の力を過信し過ぎていた。所詮噂だと対して気に留めていなかったツケだ…クソっ!まさか大悪魔が鳴りを潜めていたとは…一体いつからだ!?)
ドンッ!?
「うわっ」
「わっとと…って理事長?どうしたんですかそんなに急いで?」
「なんや理事長、考え事ー?」
「さっきのアラートと無関係じゃないでしょ?」
角を曲がった先でぶつかった。そこには大呀、鵺嶋、詠羅の3人の姿があった。
彼らの顔を見て自分が情けなく感じる。緊急事態でありながら何もできない自分が。彼女に、美琴に何もしてあげられない、ただただ傍観者であるしかない自分に…
「お前達…くっ…頼む。美琴を助けてくれ」
突拍子もない。理由もない。行く必要もない。だけど彼らは…
「了解」
「ラジャー」
「分かった」
了承の意思。
「理由は聞かないのか…?死ぬかもしれないんだよ!?」
「俺は友達のピンチに手を伸ばさない人間にはなりたくないです」
「同じく〜」
「アラート、緊急事態…推測、悪魔の討伐。そしてその個体は大悪魔の可能性大。私が行った方が最適でしょ?」
「美琴のいる場所へ通じる鍵だ」
彼らは鍵を受け取ると何も言わず駆け出した。友達を守る為に。
「…私も今の私にできる事を」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルキフグス消失から数時間後、常世。
「殺られましたね」
赤い空、黒い大地。常世ではおおよそ生物なんて存在できないと思わせられる光景が広がっている。
「なんだ殺られたのかよ〜なっさけねぇーな」
「貴方に言われたくはありません。アスモデウス」
会話をしている2匹の大悪魔。陸朗と縁のある“残酷”の異名を持つアスモデウスと先ほど美琴により消滅した“拒絶”の異名を持つルキフグス。
他の悪魔と違い大悪魔が完全に消滅しない理由には訳がある。
「折角現世で活動できるくらい魔力と身体を出せたってのに…あの女、何者だぁ?」
「貴方と一緒に居た訳では無いので知りませんよ。ハァ…お互いまたやり直しですね」
普通の悪魔と違い、大悪魔は体を構成する魔力が多い。故に大悪魔になる悪魔は身体が巨大になる傾向にある。
悪魔が常世から現世へ出る際に生じる空間の歪みを“マナゲート”と言う。マナゲートの大きさは悪魔サイズ。つまり大悪魔が通るには小さ過ぎる。無理に通ることもできるがその分魔力を消耗する。悪魔にとって魔力とは生命力。それを加味してもリスクが大きい。
大悪魔は現世へ出る時、その膨大な魔力量から現世に出た瞬間、魔術師達に感知される。
大悪魔と言えど全世界の魔術師達と全面戦争は御免なのだ。ならばどうして魔術師にバレずに現世へと干渉できるのか?それは一般の悪魔レベルまで魔力を凝縮、本体から切り離してマナゲートを通るから。分身と言ったほうが分かるだろう。
「フフフ…大悪魔、異名持ちともあろう者が揃いも揃って無様な姿ね」
「チッ…相変わらず嫌味な言い方だなぁリリス」
「アスモデウスと一纏めにしないでください」
リリスと呼ばれた悪魔。顔を黒いベールで覆った女型の悪魔。ベールの下からかろうじて見える唇の赤い色が肌の白さと相まって浮世離れした、現実感の無い気味の悪い姿。
「ねえアスモデウス〜私気になる子がいるのだけど〜味見してもイイかしら?」
リリスが近寄りアスモデウスの身体をベタベタと触り密着する。その言葉と行動にアスモデウスはイライラとした様子で…
「それを言うって事は俺が気に入ってる奴って事だよなァ?殺されたいのかクソビッチ?」
「ヤダわぁ野蛮ね。私が“天秤”を出していない時点で戦う意志なんて無いって分からないのかしら。ま、もう手を出してるのだけどね。事後報告ヨ♪」
「ヨシ殺ス♡」
「落ち着けアスモデウス。リリス、私達悪魔の暗黙のルールを破るのですか?と言うよりも何故破っている?と聞くべきですかね(ボソッ)」
大悪魔達の暗黙のルール。それは力の強い大悪魔が仲間内で争わない為のもの。同士討ちにより今の人間と悪魔の均衡を崩さない為のルール。唾のついた、気に入った人間は先に獲物を見つけた悪魔のものという極めて当たり前のルールである。
「ウフフフ、そのルールは人間に限定されたルールよ?でも彼は違う。そうでしょアスモデウス?」
「チッ…殺すなよ。まだアイツとは存分に殺り合えてねェからな」
「それはどうかしら?」
「ア゛?」
「私に殺られたらその程度の奴だったって事でしょ?貴方のお眼鏡に叶うような奴じゃなかったって事じゃない。ウフフフ…存分に可愛がってあげるんだから」
「ハァ…やれやれですね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある任務先。ルーファと琳の2人は特別任務で学園を離れていた。任務地へ向かう道すがら思い付いたようにルーファは話出した。
「陸朗くん達今頃何してるかな〜」
「一回会っただけでもう名前呼び?毎回思うけど距離の詰め方鬼だね。情報あるけど聞きたい?」
スマホを操作し学園で起きた事件などを調べる。
「もち」
「大呀くんのクラスメイト、藤波美琴が“拒絶”のルキフグスを単独撃破だって」
「おぉー!高まるねぇ」
「大呀くんと詠羅さんの情報は特にな……あ、2人で里帰りしてるみたいだよ」
「何ですって???」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます