第二十五話 友達
(ありえない!才能は認めていた。だがこれほどまで成長するとは!!)
ルキフグスは戸惑っていた。彼女の急激な成長を。母親、親友との死別を乗り越えることができず絶望の中で、夢の中で我が物になると思っていたから。
ズッ!
「何だコレはッ!?」
地形が丸く消える。いや、削られている。これは彼女が無意識下で制限していた、封じ込めていた異能力。
空中を移動しながら彼女の動きを注視する。
(空間を削り取る力か!?いや違和感がある。何か…)
削り取る反応が起こる前に必ず彼女はその中心へと小石を投げる。そして削り取った円の中心に小石とは別の小さな粒ができ、落ちるのを確認する。
「そうか才女、貴様の異能力は!」
(気づかれた…でも問題ない。射程距離内!ここで確実に!)
身体強化魔術、風属性魔術を使い空を駆け近づき、小石を投げる。が、小石がルキフグスに当たる前に彼は自身の能力で亜空間へと消える。
「…」
「フフフフフフ…フハハハハ!!!私の作り出す亜空間にはナンビトも干渉することはできません!ここは世界を拒絶する亜空間。世界に存在する貴方にはどう足掻いても私を捉える事はできません!」
“拒絶”の異名を持つ大悪魔、ルキフグス。彼の能力は空間を繋げて渡る“異界来行者(コスモトラベラー)”。自身の作り出す亜空間と世界、その他の宇宙へ干渉する力。当然、亜空間へ逃げ込んだルキフグスに美琴は為す術が無い。
「才女、貴方の異能力は“圧縮”。触れた物を中心に空間を削り圧縮する能力。幼いながら私に向かってくるだけの慢心を育てるには十分な力です。ですが能力の発動する範囲が決まっている。自身に影響のある広範囲には展開できない。違いますか?」
「っ…」
「図星、肯定と受け取ります。私を少しでも警戒、恐怖させた事に敬意を表し私も残りの魔力を使い全力で仕留める事にしましょう!“魔獣化”です!」
亜空間内での魔力全開放と“魔獣化”。その余波は現実世界に影響を及ぼす。
藤波美琴は落ち着いていた。強敵を目の前にしても呼吸は乱れない。かつての宿敵で母親と親友の仇であるルキフグスを前にしても心は乱れない。それは魔術師としての矜持がそうさせたのか?違う、答えはNoである。
本来格上であるはずの大悪魔ルキフグス。彼は魔獣化という奥の手まで使い、美琴を確実に消すつもりなのだろう。
(この感じ…私は嬉しいのかも。私を倒す為だけにルキフグスが全力を出そうとしてる。私を自分を倒しうる存在として全力で排除しようとしてることに…)
本来大悪魔の魔獣化は奥の手であり、そう何度も使う事ができない。それを知っている彼女はルキフグスのその行動が自身を認めた上での行動だと受け取った。
「キエサレ!!!」
四方八方に空間の穴が開き、そこからルキフグスの口が飛び出し一斉に光線を乱発する。
彼女は避けながら考える。
(やっぱり…勝てる)
勝機は見えた。
「ナニヲワラッテイル!?」
「いや焦ってると思って」
「ナンダト?」
「気づいてないかもしれないけど、アンタが言ったのよ?私の異能力“圧縮”は空間を削り圧縮する力。亜空間にいるアンタも例外なく圧縮対象になるんじゃない?」
「…ナ…ダガアタラナケレバイイダケノハナシダ!!」
「そう。やっぱり亜空間内でも“圧縮”の効果はあるのね」
「ア…!?」
こいつはアホでマヌケなのかもしれない。仮面の男状態の時のアイツ(ルキフグス)の方が幾分か知性を感じられたように思う。
「でもやっぱり私1人じゃアンタに勝てなかった」
「ナンダ、マケヲミトメルノカ?」
「いや、ちょっとだけ悔しいのよ。全魔力集中…」
「コノマリョクノシュウソク…」
「この街を丸ごと圧縮する!!」
「バカメ!マチノソトニニゲレバイイダケノハナシダ!」
本当に呆れそうになる。
「アンタ自分が今何の中に居るか忘れたの?」
「ケッカ…」
そう。理事長が日本全土を結界で覆っている。結界内ではその結界を破らない限り結界外に出る事はできない。その中にいるルキフグスも例外は無い。
「マッー」
“全圧縮(クラッシュ)”
富山県某所での大悪魔ルキフグスとの戦闘終了。
ルキフグスの敗因は集めた魔力を心象結界に使った事。亜空間内で魔獣化を使い巨大化した事による鈍化。そして、最大の原因は結界を破らなかった事。
「お母さん、柊。私、勝ったよ」
美琴は広範囲の圧縮で魔力を使い果たし落下していた。
「セーフ!無事みたいやな」
空中落下の途中で駆けつけた律に抱えられる。
「何でこんな所に…?」
「何でって…そりゃ友達心配せえへん奴居らんやろ!何日も休みよって」
「とも、だち…」
「当たり前やろ。陸朗に月夜ちゃんも心配してんで」
「おーい、律ー!藤波さん無事ー?」
「ほらな」
「そう…心配しなくても私は大丈夫よ。信じて待つくらいしたらどうかしら。と、友達なんでしょ?(ボソッ」
「ブフッ…」
目を背けながら呟く彼女に律は笑顔になる。それを見て恥ずかしくなり暴れる彼女に近寄る陸朗と月夜は吹っ切れた様子の彼女の無事をただ喜んだ。
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