神を信じない俺は

第二十一話 王者の蠍（サソリ）

「殺させるかよ」

ギリギリギリッ…

ハサミの一撃は重く、腕が軋む。かかる重さを利用し鞘を滑らせ攻撃を往なす。

ズドンッ！！！

地面がひび割れ、その一撃の重さを物語った。

（何発も受けるわけにはいかないな…）

「動けるなら走って後退！ここは俺が引き付ける」

「死ぬ気か！」

「たく…律頼んだー」

「何す、グェー！？！？」

魔力切れで動けないホロートの襟首を掴み後ろの律目掛けて投げ飛ばす。

「ナイススロー♪」

「殺す気か！！！」

「陸朗くん任せるわ。私たちは先生の使い魔を探すわよ」

ホロートを背負い律、藤波、ユーリ、オリヴィエ、ミシェル、ラベンダは走る。

「ちょっとあの子1人だけで大丈夫なの」

「“魔術殺し”、魔術の効かない相手に無策で挑めるわけないじゃない。魔力、体力、時間の無駄よ」

「陸朗が戦いやすいように補助はできるけどな。今は使い魔や。これ異常やで。明らかにグレートスコーピオンの上位個体。危険度A以上のバケモンや。そんなんと真正面から殺り合えるんわ陸朗と詠羅さんくらいやな」

逃げる彼らに注意が向かないよう陸朗は攻撃を仕掛ける。

（デカい図体だから小回りはきかない。脚や腹の間を縫って切り裂く！）

キンッ！！！

金属音と腕の痺れ。

（硬っ！！！昨日のグレートスコーピオン以上の硬度！）

ホロートの強さを改めて思う。

（“魔術殺し”の甲皮に少しでも傷を負わせたんだ。彼は強い魔術師だ）

再び刀を振るうが弾かれる。少し体制が崩れ手を地面に付く。その地面を突き抜け毒針が頭目掛けて飛び出す。

「こいつ…！！」

刀で弾きスコーピオンの全体像を見る為、距離を取る。スコーピオンは最初から地面に尾を隠していた。そのことに気がつき陸朗の額に冷たい汗が垂れる。

（最初のハサミの一撃。あの時、俺やホロートをいつでも殺せたんだ。でもそうしなかった…）

「舐めてやがる…」

「陸朗」

「うわぁっビックリした！」

いきなり後ろから声をかけられ飛び退く。

「どうしたの？」

「どうしたの？って見たらわかるだろ、魔物（こいつ）を倒すんだよ」

「…私も戦っていい？」

「なんでそんなこと聞くんだよ」

「貴方の獲物を横取りする事になるから」

彼女の目が全てを物語っていた。「私ならこの魔物を殺せる」そう言っている。自信？虚言？いや事実なのだろう。彼女は1人でこいつを倒せる。

「…今の俺じゃ1人でこのデカブツを倒せない。だから手伝ってくれないか？」

「ふふ…いいよ」

彼女は不敵に笑った。多分、彼女の思惑通りの答えを出せたのだろう。彼女は嬉々として刀を抜いた。

俺と彼女が話をしている間、スコーピオンは攻撃をしては来なかった。

ギィィィィィィィィィャ！！！

月夜が刀を抜くと同時にスコーピオンはハサミを振り下ろす。

ギン！！！

金属音が響き、彼女の足は地面に沈んでいく。

「重い…」

ハサミの一撃で動きを封じ彼女を仕留めようと地面に潜り込ませた尾を動かす。毒針でトドメを刺すため仕掛けた。

「ワンパターンだな。焦ってんのか？」

ギィッ！？

地面から飛び出した尾を斬り落す。彼女を早々に仕留めようと彼女だけを見ていたスコーピオン。狙いが単調で分かりやすかった。

「身体が硬い鎧に完全に覆われているなら斬るのは無理。でもそうじゃないなら鎧と鎧の間は柔らかい、弱点だろ？」

ギィィィィィ！！！

ハサミを振り払い、尾を切り落とした俺に目を向ける。が、それは悪手だった。一番目を離してはいけない相手から目を背け、背中を見せたのだから。

「朧月」

振り払った斬撃はスコーピオンの身体をすり抜け大樹を切り倒した。

バキバキッ…ドスゥンッ………

スコーピオンは体の中心から二つに分かれ別々に倒れた。

「ありがと、月夜さんお陰で生きてる」

「その刀を使えたらこんな奴敵じゃない。もっと精進することね。私が訓練…見てあげようか？」

「ほんと！？是非！」

彼女の手を掴み上下させる。願ってもない事だ。彼女の剣技には目を奪われる。究極の技を学ぶチャンスだ。

数分後、見慣れない生徒を連れて律が来た。

「えー…倒してる…」

「律この人誰？」

「ああ、自己紹介してないや。俺はオスカー。君達の先輩で2年。片群先生に頼まれて助けに来ました。よろしく…まあでも要らなかったみたいだね」

その人の周りはビリビリとしていて少し痺れる。オスカーが生徒を1人残らず救助し、正午となり結界は解かれた。波乱の模擬戦が無事（？）終了した。

ー教室ー

「はいお疲れ様〜いやー最後ドッキドキだったな。まさかクラウンスコーピオンが出てくるとは俺も予想外だった」

・クラウンスコーピオン

グレートスコーピオンが他の魔物を食べ一定以上の魔力を蓄え進化した個体。上位個体とも言う。

「嘘くさいわ〜」

「魔物の危険度も最初に説明された物と異なってましたわ」

「「そーよそーよ」」

「あのなー事前情報が間違ってましたなんてのはザラだ。それに文句つける奴は魔術師向いてねーよ。自分の目で見て判断する力をつけろ」

「とは言ってもズレ過ぎだな」

「うむ」

「はいはい、それではお待ちかねー魔石回収をしまーす。持ってる人から提出してくれー」

「…え？」

「…は？」

「んーどうしたみんなー？」

「「「「無い（ですわ）」」」」

「最後の戦闘で落とした？いや…」

生徒全員魔石を回収し損ねたようだ。勿論、俺や月夜さんもだ。

「えー全員魔石回収し忘れたのか？ま、そんな時もあるわな。今日は帰ってゆっくり身体を休めろよー」

そう言い片群先生は教室を出て行った。あの人絶対何か隠してるし…

ー片群先生の部屋ー

「ご苦労様ー」

「こんなことしていいのか？」

「良いんだよ。生徒には成功よりも失敗を多く経験して欲しいからな」

先生用の個室に片群とオスカーの2人。そして、オスカーが片群に手渡した袋の中身は今回の模擬戦で生徒が回収した魔石が入っていた。