第二十二話 幕間

「ふんふんふふ〜♪」


リズムに乗り、鼻歌を歌いながら学園の廊下を歩くこの男。1年の時に神殿から学園へ預けられ、剣術、武術、魔術の才能を開花させた天才。金髪碧眼、容姿端麗。


「そんなに会うの楽しみ?ま、僕もだけど」


その後ろで彼に着いて行くこれまた端麗な黒髪碧眼の男。彼らは天才と呼ばれるほどの実力者、学生の中で頭ひとつ飛び抜けた者たち。だが一方でこうも呼ばれている。


問題児と…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい」


「ホロートどうしたの?」


「…っ」


「ホロート様…」


訓練場へと向かおうとして呼び止められた。振り返るとホロートとアイシエ。

呼び止められた事はそれほど驚かなかったが、呼び止めた相手がホロートだった事が驚く原因だった。そして、俺は再度驚くことになる。


「っ…はぁ…模擬戦では助かった。礼を言う。ありがとう」


ホロートが「ありがとう」と礼を言い頭を下げた。

出会った時の印象と全く異なっていた。何かと突っかかり、魔術の才能が無い奴を目の敵にしてるとばかり思っていた。でも模擬戦でそれが俺の勘違いだっと分かる。本来は優しい性格なのだろう。その証拠に彼は命を張りクラスメイトを守った。


「クラスメイトだからね」


「そうか…」


そう言いホロートは背を向け戻っていく。彼の後に続かずアイシエが俺に近づく。


「ホロート様はお家、周りの人の重圧もあり、何事にも努力を重ねてきました。1番でなくてはならない。そう自身にも言い聞かせて。なので初めは陸朗様のことを理事長の贔屓で入ってきた実力不足の魔術師だと思っていたみたいです。ですが任務、実習、模擬戦と陸朗様の力を見て考えを変えたみたいです。私からもお礼を。ホロート様を救っていただきありがとうございました。少し昔の優しいホロート様に戻られたみたいで私は嬉しいのです」


アイシエさんがこんなにハキハキ喋る人だと思わなかった。ホロートに対する熱量が段違いだった。ファンかな?


「おい行くぞ!」


「はい。では」


彼らを見送りながら考える。彼ら彼女らにもここに来るまでの物語りがあって決して緩やかなものなんかじゃない、険しい軌跡があったんじゃないかと。


ー訓練場ー


野外にある大きな訓練場。三重の強固な結界に覆われている為、魔術の行使は勿論、壮大に暴れても問題ない。天気が悪い雨の日でも結界で守られている為雨水は入ってこない。


「グェ…超痛い…」


先日の模擬戦の時に約束した陸朗は月夜の訓練を受けていた。


(どの角度から打ち込んでも斬り返される…)


陸朗は刀以外にも素手による搦め手も使っている。だが、彼女からまだ一本も取れていなかった。


「アハハハハ!めっちゃおもろ〜なんやその倒れ方!」


休憩用ベンチから指差して笑う律を睨みつける。だが、中途半端なでんぐり返し状態の陸朗が睨んでも全く怖くはなかった。むしろ情けなささえある。


(くそ…取ったと思ったのに上に注意を向け過ぎた…足払いで簡単にすってんころり…)


「訓練用の木刀じゃなかったら君、16回は死んでるよ?傷つく事前提の攻撃は効果あるけど強い奴には通用しない」


「っ…」


ぐうの音もでないとはこの事だ。俺は異能力に頼った戦闘しかしてこなかった。治るから。


「受けずに斬り伏せる。それが私」


訓練用の木刀から真剣へと変える。あの長刀だ。そして刀を抜き放つ。


「“真月(しんげつ)”」


バリッ…!!!


抜刀一閃。抜き放った一撃は空気を裂き、結界を分断し、雲を別つ。


「おいおいおい…」


「…っ」


呼吸を忘れたように…

その一撃は俺の心を掴んだ。その一撃を作り、その一撃を生み出す為に彼女が歩んできた物語(じんせい)。その全てが俺の心に深く響いた。

美しく、かっこいい。


「顔が赤いけど大丈夫?」


「だ、だだだ大丈夫!!!ち、近い…」


「ごめん」


「プッ、アハハハハ!おま、お前分かりやすい奴やな」


「うるさい黙れ!」


こんな筈じゃなかったのに…


「あれ?結界が無いぞ?」


「本当だ!これやったの君?」


黒髪碧眼、金髪碧眼ロン毛の2人の好青年。1年の生徒では無い…恐らくだが2年生。


「貴方は?」


「おっと、申し遅れた。私の名前はルーファ・エイブルハンズ。こっちの彼は私の親友」


「琳(りん)です、よろしく」


「私達は2年生でね、オスカーから君達の話を聞いて是非会いたいと思って来たんだ。詠羅くんと大呀くんであってるかな?」


「はい」


「…」コクン


「その技巧を見たいと思ってたんだ!でも聞くのと見るのとじゃ全く違うね!!」


と言うふうにオモチャを目の前にした子供の様な大興奮。早口で感想を言い出し月夜は少し引き気味だ。


「ちょっと、詠羅さんが困ってるじゃないか。その辺りにしな。ごめんね詠ー」


「こらぁ!!!またお前たちか!!!この問題児共!!!結界を破りよって!!!理事長になんと報告したらいいか……今日という今日は絶対に許さーん!!!」


この学園の掃除、施錠、木々花々の世話や管理をしている用務員の梯子(はしご)さんが今までに見たことのない形相で2人に迫っていく。というよりもそれをやったの先輩たちじゃなくて月夜なんだけど…って!その当の本人は知らん顔だし!!!


「やっば!じゃ私達はこれで!行くぞ琳!」


「じゃあまたね」


そう言い逃げる様に去って行った。その彼らを追い梯子さんは俺と詠羅さんの間を通り過ぎて行った。


「身代わりご苦労」


「なんか嵐みたいだった…」


「俺完全に除け者やったしな…それより梯子さん怒るんやな」


「いつもニコニコしてる人ほど怪しい」


「確かにな…それ俺に向けて言うてへんよな?」


「…」フイ


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ー理事長室ー


「理事長、一つ頼みたい事があって来ました」


「何かな?美琴くん」


理事長室には2人だけ。藤波美琴とモーガン・エインズワース。


「外出の許可をください」


彼女の目を見て行先の検討は容易についた。


「…理由を聞いてもいいかな?」


「私があの関係に名前をつける為に、陸朗や律…みんなと対等な関係でいる為に必要なんです…」


「…そうか。外出の許可を出そう。いってらっしゃい」


(歳をとると涙もろくなって敵わないな…)


お辞儀をして理事長室から出ていく彼女の背を見送り、モーガンは小さい時の彼女を思い出していた。


「だが…本当にいいものか…」


(あの噂が本当なら彼女を1人で帰らせるのは危険…だが)


「1人でけりをつけに行くんだな」


彼女の言葉は強く、思い出した幼き日の全てに絶望した彼女とは違い、成長を感じずにはいられなかった。

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