第二十話 模擬戦(後)
スローになる視界の中、銃声の後、目の前のグレートアントの頭が吹き飛ぶ。
「陸朗困っとるようやな。力貸したろか?」
「律!!」
森の根がグレートアントを投げ飛ばし叩き潰す。
「なんや魔力の無駄とか言うて、手伝わへんのかと」
「無駄と言うのは意味の無い事。私が今行っている手助けは意味の無いものではありません。それよりも貴方がもう少し早く助ー」
「あーはいはいストップストップ話は後や。今は」
「「目の前の敵(ですね)」」
それから半刻ほどで数千のグレートアントの群を一掃した。
幻想魔術。初めて見たけど圧巻の強さだった。頭の中のイメージをそのまま現実に落とし込み使用する。デメリットである魔力消費量を少なく抑えるため森と言う環境を使った彼女の魔術は無駄がなく洗練されたものだった。
「ありがとう。助かったえっと…」
「ユーリ・フォルト。ユーリでいいわ陸朗くん」
「俺の事知ってるんだ」
「鵺嶋くんがさっきそう呼んでたから。それより場所を移動しましょう。この場所で団欒は不味いわ」
ああこの子。ほんと無駄が無い。
長期の戦闘で魔力枯渇状態で動けない藤波さんを背負い、ユーリの後に続く。少し離れた大きな木の根元に着き、そこで休息を取ることに。
「ほんとに助かった。ありがとう律、ユーリさん」
「あ、ありがと」
「2人だけのペアでは出来ることが限られてくる。他のペアと協力して課題をクリアする方が合理的」
「気にせんでええ」
夜は魔物が昼よりも凶暴化する為、仮眠を取り、交代で見張りをしながら夜が明けるまで待つ事にした。灯に魔物が寄る可能性を考慮して暗闇の中で見張った。
最初は俺と藤波さん。
「あの…ありがと」
「え?」
突然のお礼に困惑する。
「今日…陸朗とペアで改めて自分の弱さを実感したの。無力さ。実力不足。足手まとい…私には足りないものが多すぎるの。それでも私を信じて背中を預けてくれた事」
「…俺昔、鹿(かな)っ、魔術の師匠みたいな人に言われた事があるんだ。「一人でいるな。誰かと一緒に、お前のことを見てくれる人と一緒に」ってさ。その当時はその言葉の意味が全然分からなかったんだけど、今は少しなら分かるんだ」
鹿目さんは多分、この事を言いたかったんだと思う。
「俺は人付き合いとか腹の探り合いとか苦手だけど藤波さんは俺と壁を作らずに話してくれてるじゃん」
「それは…私も気を遣ったりするのが苦手なだけだし…今しか伝えられないかもしれないからってだけよ…」
「多分、俺はそれが心地いいんだ。あ、藤波さんだからいいのかも」
「あ、あんたって…ほんとっ…人た…いいえ。ドMよね!」
「えーっ!?今の会話のどこにそれを断定する要素が合ったの!?」
森の中を通り抜ける風が強く吹き、俺と藤波さんは互いに見合いながら小さく笑い合った。
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正午まで残り2時間。あれから魔物と接敵せずに隠密する事ができた。人の目が増えたという事が大きいように思う。2人のペアでは気がつかない事も人数が増える事で気づく事も増える。
「残り2時間…このまま隠密続けるか?」
「無駄な魔力、体力は使わない」
「そうだね。藤波さんの魔力も完全に回復したわけじゃないし、このまま隠れてやり過ごそう」
方針が決まり再び身を潜めたとき、悲鳴が聞こえた。
「…!?」
「あ!ったく…」
「…行きましょうか」
悲鳴の方へと瞬時に駆け出した陸朗。それをしょうがないとため息を吐きながら続く3人。
悲鳴の元は魔力切れのミシェル、ラベンダのペア。そこにはオリヴィエとホロートの姿もあった。ミシェルとラベンダがグレートビーに襲われていたところを2人が庇ったようだ。
「エクスブレイズ!!!」
「フロストサンダー!!!」
ホロートの振るった杖から火の玉が飛び出しグレートビーに付着する。直後、炸裂し火柱を上げる。
オリヴィエの放ったフロストサンダーは氷属性と雷属性魔術の複合魔術。氷属性の発動が遅いという欠点を雷の魔術でカバーしたオリヴィエだけのオリジナル魔術。相手に早く届き凍りつかせる。
グレートビーの数は残り数十匹。だが、既に包囲されており逃げられない。庇いながらの戦闘となるとオリヴィエ、ホロートの負担が大きくなる。
「オリヴィエ様申し訳ありません!」
「お手を煩わせました。面目ありません…」
「2人が無事で良かったわ…ホロートさん残りの魔力は!?」
「…倒し切れるほど残っていない」
「っ…私も戦闘続きで簡単な補助魔術しか使えそうにありませんわ…」
残りの魔力が少ない事が分かったのかグレートビーは奇声をあげながら猛進する。
「…っ」
絶体絶命のピンチに陸朗と律、ユーリと藤波が合流する。
「大丈夫か!」
「助けに来たで」
「助けなどー」
「魔力が殆ど無いのに見栄張らないで。無駄だから」
「確かに…言い訳のしようもありませんわ…」
「ありがとう」「ございます」
体力、魔力共に残っている4人を先頭にグレートビーの軍隊を蹴散らして行く。
「やっぱおかしいわ」
「そうね、通常数千の群れで行動するグレートビーが数十匹しか姿を現さない…何かの前触れかしら?」
「…下から何か来る!?」
ドゴォォォォ!!!
大地が割れ、周りにある木が次々と抜け倒れる。裂け目から姿を現したのはグレートスコーピオン。だがそれよりも遥かに巨大で黒色に輝く鎧を身に纏った魔物だった。
「グレートスコーピオン!?」
「“魔術殺し”が何故こんなところに!!」
「それよか退避や!!逃げんで!」
全員その場から離れるが魔力も体力も限界に近いミシェル、ラベンダが遅れをとる。
「「キャァァァァァァ!!!」」
「チッ…フレアブレイズ!!!」
2人を庇う為、残りの魔力を全て使い大技を放つ。杖から放たれた火炎はスコーピオンを包み込み、周りの温度を上げ辺りを焼け野原へと変えた。
「ハァハァハァ…今の内に逃げろ!!」
「「はい!」」
包み込む炎を引き裂き、再びスコーピオンが姿を現す。
ホロートは名家の生まれであり、魔術の才能も同年代の子供達よりも優れていた。その地位に甘えず己を鍛え、才能を才能とせず、努力を続けた。が、無力さを痛感する。“魔術殺し”の異名は伊達ではなく大技のフレアブレイズの直撃を受けてハサミの甲皮が少し赤くなる程度で“ほぼ無傷”。
(これで…終わりなのかよ。今までの血の滲むような努力も!それも全部無駄だったのかよ…!!)
「ああ…死にたくねぇや」
振りかぶられた巨大な鋏の一撃はホロートへと振り下ろされた。
「殺させるかよ!!」
ホロートの前に立ち、スコーピオンの一撃を受け止めたのは彼が馬鹿にして貶し、下に見続けた田舎者(ろくろう)だった。
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