第十九話 模擬戦(中)
「この調子なら残り20時間、何とかなりそうとか思ってたら痛い目見るぞ〜昼の魔物よりも怖く恐ろしいのは夜の魔物だからな」
「ですね、昼のように上手く立ち回れると思わない方がいい。それより、何故生徒たちに伝えた危険度よりもランクが上の魔物を放ったんですか?」
「渡された資料や事前情報よりも実際に現地で遭遇した悪魔、魔物の方が危険度が高かったなんてのはザラですからね。理事長なら分かるでしょう?そういう経験は多くしておくものですよ」
「…」
「あ〜お気を悪くさせたらすみません。でも実際問題ですよ?被害は奇跡的に0でしたけど、今回大呀達が出会った悪魔は二つ名の最上位種で魔獣化という奥の手まで出してきた…アンタ、また魔術師(せいと)を墓場に送るつもりか?」
片群のボサボサっと整っていない前髪の隙間から見える瞳、その瞳には理事長に対するあらゆる感情が映っていた。
「こーくーとー♪」
その2人の間にある微妙な雰囲気と静寂をぶち壊したのは保険医、千都世。彼女は空気を読まずに刻斗の首をがっしりとホールドしていた。
「あれ、どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇーよ…てか首し、し、絞めてるぅ…」
「あ、ごめん。生徒の様子見にきたのと、頼まれてた彼を連れてきたわよ。刻斗の授業は全体的にキツイからね」
「相変わらず無茶な授業してんのな。理事長もこんちは」
「はい、こんにちは」
「よく来たな〜」
学園支給の黒いローブに身を包み、マフラーで口元を隠している彼は2年生のオスカー。
2年の問題児2人のお目付け役を任せられるほど頼れる存在。そんな彼を呼んだ訳は…
「そんで、話って?」
「彼らが危なくなった時サポートしてあげてほしいんだよね。俺が行ってもいいんだけど、生徒である君が手を貸してくれた方が生徒(彼ら)にとって良い刺激になると思うんだよね〜。それと、もう一つ頼まれてくれ」
「ハァ〜…はいはい。要はサボりたいだけでしょ?」
「…全く?」
理事長の手前、そんな事口が裂けても言えない片群なのだった。
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夕暮れ。あと数刻もすれば夜が来る。そんな時間。彼ら彼女らは一時の休息に入っていた。
「これからどうするのよ」
「んー魔石は無事に回収したから次のステップ、明日の正午まで魔石を死守かな」
「死守って大袈裟ね」
すぐ近くにグレートビートルを確認し、林に身を隠しながら会話を続ける。
「大袈裟じゃないかも、律の質問に答えた先生の話覚えてる?」
「えっと、確か…森には魔物を放っている。等級はB−〜C。その魔物を倒し魔石を取り、持ち帰る。制限時間は明日の正午。明日の正午になるまで森には結界を貼るので出られない。だったかしら?」
「そう。これは依頼みたいなものだから、恐らく現物を持ち帰らないといけない。取られたり無くしたり、破壊されたらダメなんだ」
「取られたりって…他のペアに狙われるかもしれないって事!?」
「可能性はあるよ。俺や詠羅さんならともかく、他のペアが“魔術殺し”に出会ったら逃げるしかない。今日初めてあった人もいたけど俺の見立てだと魔術に頼った遠距離攻撃主体の人が多い」
「なるほどね。倒せないとなると他のペアから奪う。蹴落とし合い、足の引っ張り合いが好きそうな連中だもの。考えたくないけど考えられる可能性ではあるわね」
「だから俺たちはこれから正午まで人や魔物に見つからないように魔力、気配を消して隠密しながら過ごす。緊急事態の時まで魔力を温存できるし、もし戦闘になっても魔力量や体力で勝りたい。異論ある?」
「無いわ。それが確実にクリアできそうだもの」
通り過ぎたグレートビートルのお尻を見送り、移動を開始する。藤波さんの魔力探知を頼りに遭遇の少ないポイントへ向かう。
が、それが甘かった。魔力探知は魔力を持つ生物の居場所を探知できる。それ故に、逆探知されるリスクもある。
「ごめん、大呀くん見つかった。二時の方向から数千」
「っ…」
日が沈み夜がくる。魔物は複眼(しりょく)を失い、魔力を辿る。
(クソっ!思い出した。夜の魔物は視力を捨てて魔力を身体で感じ取る。魔力探知なんて居場所を伝えているようなものじゃないか!)
「藤波さん援護よろしく、俺が斬り込む!」
グレートアントの大群だ。
…数百匹は倒しただろう。疲労が溜まってきた。手足が重く、変わらない視界に精神が擦り減る。
(キリがない…!!補助魔術に攻撃魔術による後方支援、藤波さんも限界が近い)
陸朗1人だけならどうにか逃げ切る事もできただろう。だが、これはペアの模擬戦。仲間を見捨て逃げるなど、陸朗の頭には無かった。あるのはこの状況をどう2人で突破するかだった。
(どうする…!?)
頭上に影ができる。
(しまっー)
藤波は限界。数時間続く戦闘で動きが遅れた陸朗の隙を魔物が見逃すはずは無かった。
バンッ!!!
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