第十話 危機感

俺は知らなかった。現実に、ど◯でもドアがあるなんて。


「理事長はこの海上都市と日本全土に結界を貼ってる。その結界同志を魔術で繋げてある。だから日本国内なら理事長の許可さえ下りれば何処でも自由に行き来できる」


俺たちは先生の後に続き、専用の扉を通る。そこは青木ヶ原樹海に入る一歩前にある某所、小さな集落。借りている一軒家に扉を繋げたらしい。そこから樹海へと向かう。


「山梨名物買いたかったわぁ〜」


「まだ言ってる…」


「まだ皆んな出会ったばかりでお互いの事を信用できてないと思う。だから今回は少ないペアで、2人一組になって樹海を探索してくれ。来る前にも言ったが悪魔の推定等級はA−〜B+ほどだと予想されてる。だが甘く見るなよ。推定等級はあくまで推定だ。内在魔力量から導き出された等級は本人の技巧、技量、扱う魔術により上下する。くどいと思うが甘く見るな」


「「了解」」


「よし、では行ってこい」


2人一組のペア。俺まだ友達居ないんだよな…


「ほな行くで大呀くん」


「え、あ、うん!」


俺は嬉しくなると同時に寂しくなった。ように思う。鵺嶋が引っ張ってくれる事が嬉しい。その後ろ姿が…鵺嶋と彪雅が一瞬だけ重なった。彪雅も俺を引っ張ってくれる存在だったから。変わらなきゃ。彪雅はもう居ないのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


樹海に入って1時間ほど経っただろうか。入った場所は皆同じであったが広大な樹海を探索していると周りに人の気配すら無くなっていった。


「ほんまなんもないやん!!悪魔の1人2人居らへん。そんな一斉にこられても困るっちゅう話やけどなぁ〜?」


「…」


鵺嶋の言う通り悪魔の痕跡は無い。広大な森から悪魔を探し出せって言う方が難しいと思うが。


「もう見つからーん!お手上げやぁ!…とはいかんかったな」


「ああ」


辺りの気配が変わり、俺たち2人は足を止める。どうやらもう檻の中のようだ。


「お前たちは強そうだ…とりあえず後回し。まずは脆そうな箇所から叩くとしよう。全く、こうも的確に探知されてはやってられないな」


悪魔の一体がそう口にすると顔が変わった。

なるほど、下級の悪魔を使って視覚などの情報を共有したって訳だ。俺たちの力量を瞬時に測ったのであれば推定等級A−という脅威度も間違いではないようだ。


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



俺たちのいる場所から少し離れた箇所から叫び声が聞こえた。脆い箇所から叩く。なるほど、派遣された生徒全員の力量から1番突発しやすいペアを攻撃した訳だ。


(あのメンバーで地力が下のペアは…赤髪と青髪のペア!相手はA−の悪魔、ならあの2人だけじゃ無理だ!)


「鵺嶋!ここ任せていいか?」


「え〜…せや!そろそろ名前で呼んでくれてもええんやで?」


「律任せた!」


「了解〜」


そう言い彼は魔法陣から二挺の短機関銃(サブマシンガン)を取り出す。


「雑兵は任せぇ。先行っとき」


頷き走る。それと同時に銃を乱射する音が聞こえる。あの形して結構えげつない武器使うんだ…と心の中で思った事は秘密にしておく。と言うよりもその背中に背負ってる武器で戦わないの!?とツッコミをいれたい。


叫び声の方へと走り、目標が見える。尻餅をついた赤髪。それへ振り下ろされる中級悪魔の鋭い爪。あと数秒遅ければ頭を切り裂き吹き飛ばしていたであろう爪を刀で受け止める。


ギンッ!!!


耳を塞ぎたくなるような、けたたましい金属音が辺りに鳴り響く。


「間に合った」


「貧乏人…」


助けられた身でありながらその第一声はある意味賞賛に値するよ…


「チッ…お前思ったよりやるようだな」


「どうだろ、律は強い奴だよ。俺はどうか分からないけど。でもお前1人殺すくらいならできなくもないかもね」


「ほざけぇッ!!!」


「悪魔って感情に敏感だと思ってたけどそうでもないんだな」


悪魔が振るった拳は空を撫でる。


「怒りで我を忘れる。俺の怒りはこんなもんじゃない!!」


(フッ…単純な大振りこれな、ら…)


悪魔は考えた。相手の動きを見て考えてしまった。本能に従わず理性で動きに制限をしてしまった。

陸朗の最も得意とする魔術は単純な身体強化魔術。故に、振るわれた大振りの拳は悪魔の予想を超える超速度だった。悪魔がもし、本能で動けていたのなら万に一つの奇跡は起こったのかもしれない。


(何が起こった…?俺の…身体が…見え…る?)


薄れゆく意識の中で悪魔は疑問を消化出来ずに静かに消滅した。


「無事?」


「…っ」


差し伸べた手。その手を取らず払い除ける。


「あ、あの!あ、ありがとう!ござました…(ボソッ」


青髪メカクレの子が詰まりながらもお礼を言った。結構な人見知りなのだろう。こちらの反応を伺いながら一定の距離を保っている。風の音や木の葉の擦れる音で時折身体をビクッと震わせている。怖がりなのかもしれない。


「どや、そっちは?おお?情けない声上げとったんわあんたかいな」


「チッ…」


「律怪我は?」


「無い無いあらへんよ。言ったやろ?雑兵ってなぁ〜なんぼ優秀な蟻の群れでも天変地異には勝てへんやろ〜?」


「それ自分が災害って意味?」


「それ以外何があんねん」


笑う彼の笑みは本当に笑っているのか分からない、不気味さを感じてしまうのは彼のことを全然知らないからだと思う。事にする…

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