第十一話 帰還

「はいお疲れ様〜。色々あったみたいだけどみんな無事で良かったよ」


気怠そうな表情を隠そうともせず彼は大欠伸をする。本当にこの人が先生でいいのだろうか。


「先生ぇ、これなんかの試験なん?おかしいやろ。丁度のタイミングで入った任務。みんな気にせんよーにしとるみたいやけど」


確かに気になる。悪魔が都合よく現れた事もそうだけど、学園がなぜ入学して間もない生徒を危険な任務へと向かわせたのか。


「まあそうだな、最終試験みたいなもんか。お前らは入学する時、魔術試験と筆記試験を受けた。だが、それだけでは生徒の実力を正確には測れない。この学園は悪魔を倒せる実力者が集まるべき学舎だからな。この程度の等級の悪魔で苦戦、もしくは死ぬようならこの学園にはいらないと言う事になる」


先生の言葉には棘があった。気怠げな表情ではなく真剣な表情で。その表情を見て、俺たちの事を考えての言葉だと、思いたい…


「よく言うわよ。私達に気付かれないように使い魔を使って監視してたくせに」


黒髪ツインテールの子が溜め息混じりにそう口にする。どうやら本当に危なくなったらいつでも助けられるように待機してくれていたようだ。


「藤波、それは気づいていても言わない方がいいんだぞ…」


「ふん、わざわざ隠すような事じゃないじゃない。それともなに、最終試験は建前で何か別の企みがあったの?例えば実力をー」


「しーっ…それ以上の散策はお勧めしない。はい、この話は終わり。帰るよ。また明日」


怖い。その言葉は今の先生を表すのに十分過ぎるものだと思う。


「山梨名物買う暇あるやろか?」


(まだ諦めてなかったんだ…)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学園に帰ると日は落ち始めており今日は解散となった。今日学園へと来た道を律と一緒に戻る。


「そう言えば今日は歓迎会あるらしいで」


「歓迎会?」


「せや、陸朗が来て1日目やからな。ほら201号室の子も紹介せなあかんからな」


(そう言えば201号室が空いてたな…)


寮に着き、扉を開ける。


「護藤さんただいまー」


「おかえりなさい」


「た、ただいまです」


「おかえりなさい」


恥ずかしくなってしまい語尾に「です」を付けてしまった…


「これお土産!今日の授業初っ端やのになー任務やってんで!ほんま堪忍してもらいたいわー」


「あらありがとうね!まあ!立派なぶどうだわ。今日の夕飯の後にデザートとして食べましょうか♪さ、先にお風呂入ってきて」


「はい、ありがとうございます」


俺が浴室へと向かうと後ろに気配を感じて振り返る。


「わ、どないしたん?」


「いや、なんで着いてきてる?」


「そら、一緒に入る為に決まっとるやろ」


「??…え?」


「男同士裸で語り合おうや」


そして、流されるまま…2人で湯船に浸かった。浴室は広く、温泉旅館のように感じた。

今日初めて会って、できた友達と裸になり一緒にお風呂に入るという状況に戸惑いつつも暖かい湯でその考えも解されてしまった。


「あ〜湯が体に染み渡るわ〜」


「極楽…」


湯に浸かる前に彼の体を一瞥して思ったが、古傷が多い。生々しく痛々しい傷に彼の努力が見てとれる。そして彼とは違い俺にはそのような立派で誇れるような傷はない。


「ん、どないした?そんな見つめてエッチやなー」


「張り倒すぞ?傷…痛いか?」


「ああ〜これか。こんなん古傷やで?もう塞がっとるからかまへんわ。何をそないに気にしとる?」


「俺は律と違って立派じゃないから」


「そないなこと気にするだけ無駄やで。人間違って当たり前やろ。やからおもろいんやん」


「まあそうだな」


気にするだけ無駄。その言葉は彼が誰にも惑わされないで自分の足で歩いてきた事への証明のような気がした。多分、彼は自分自身で答えを出せる人なのだと。


浴場をでて共同のリビングへと向かう。浴場を出ていい匂いがすると思っていたがやはりテーブルに並べられた料理の数々はどれも美味しそうであった。


「護藤さんが作った料理が気になるのは分かるけど私が眼中に無いってのはムカつくわ」


料理に夢中になっていたせいだが席についている彼女の事を今認識した。


「わ、びっくりした」


「お、帰ってきとるやないか。紹介勝手にすんで、彼女はー」


「藤波美琴(ふじなみみこと)、別に覚えなくていいわよ」


「まあ、ツンなんよ。気にせんといてな」


「誰がツンよ!!」ダンッ


「おぉ、怖〜」


「あはは…」


乾いた笑いしか出ない。彼女、藤波さんと律の仲がいい事は分かった。そう言えば彼女今日見たことがある。


「今日先生と話してたよね?同じクラスだしこれからよろしく」


寮では学園の時のようにツインテールでは無く下ろしていたのですぐ気づくことができなかった。


「あの先生油断できへんで。何も考えてなさそうで結構どぎつい事考えとる」


「そうね。正直生徒を引っ張っていくような感じの先生には見えなかったもの…甘く見てたわ」


「それよりもや。陸朗あれなん?」


「えっと…何?」


「あれや悪魔素手で殴り飛ばして頭吹き飛ばした奴!あれ何なん!?異能なん!?」


「悪魔の頭殴り飛ばした!?」


なんか凄く驚かれてる気がする。別に普通じゃないのかな?


「異能じゃないよ。普通の身体強化魔術だし」


「いや、それが普通やないっちゅー話や。身体強化魔術はあくまでも補助的な魔術やから異能の力か風系統魔術のどっちかかと思とったんやけどなー」


「あんた見た目よりもゴリラって訳ね」


「そこに関しては物申したいけども!!」


「はい、お待たせ〜。さ、食べましょ!」


言い合っていると最後の料理が運ばれてきた。豪勢な食卓に思わず息を呑む。


(鹿目さんと住んでいる時は外食かデリバリーだったからな…)


料理は残さず食べきり、明日に備えて各自部屋に戻って行った。

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