第四話 虚影

4月春。陸朗の目の前には立派な門を構えた学校が開かれていた。その施設は初等部、中等部の一貫校である。だがそれは表向きの話、である。実際には悪魔を殺すため、異能力者や優れた才能を持つものを集め育てる養成施設。


(まさか自分が中学校に通えるなんて思ってもみなかった)


去年の冬、3年の特訓を得て対悪魔戦異能力及び魔術使用許可書(通称ライセンス)を獲得した。だが、鹿目さんには、まだ経験の浅い新米、ひよっこ、ビギナーと言われ、悪魔に対する教養を付けるべく、この中学校へと通うことになった。


1学年ずつそれぞれ校舎があり、他学年とはなるべく関わらないようになっているらしい。(昔、他学年と揉め、授業の範疇を超えた魔術戦が起こり生徒が大怪我を負う事件が発生したため)


俺はそもそも学校という場所に馴染みは無く、緊張していた。そんな俺の肩を叩き、ある少年が声をかけてきた。


「よ、初めて見る顔だな!転入生か?」


「そうだけど、君は?」


「俺は初等部から繰り上がった今は中等部の千鳥彪雅(ちどりひゅうが)。よろしくな!ぁ~って名前知らねえや」


「大呀陸朗(おおがろくろう)」


「なら陸朗だな。俺のことも呼び捨てで呼んでいいぞ」


「千鳥さんですね」


「おお、壁を感じる…」


「何やってんのよ!」


肩を無理やり組まれ教室へと向かおうとしている最中、彼の頭が前方に勢いよく吹き飛んだ。


「痛たたた…って寧々かよ」


「転入生くん困ってるじゃない!それと私で悪かったわね。ごめんね。こいつ昔から人との距離が近くって」


「うん、困ってたから助かりました。それじゃ」


「あ…」


彼らとはこれっきり、そう思っていたのだが…


「同じクラスなんだしもっと愛想よくしようぜ!な?」


「…」


この学校は魔術の素質がある者、才能がある者、異能力が発現している者が大半を占めている。故に人数が少ないのである。結果、必然的に彼らとは同じクラスになった。

登校初日から付き纏われた。あまり人と関わらないように生きよう。そう思っていたのだが、彼とは寮の部屋までも隣という奇妙な縁で繋がれているようだった。


学校へと通いだし早1週間。彼はその後も俺の前に顔を出した。挨拶、何気ない会話、そして1日の最後に挨拶。朝の登校、休憩時間、昼休み、放課後。彼の顔を見ない日は無かった。もう一種のストーカーだと思う。


「あの、付き纏わないでくれる?」


「あ~ウザかった?ごめん。でも俺は君と仲良くしたい。そんで友達になりたいの」


「俺は君と仲良くするつもりもないし友達にもならないよ」


「じゃあ私は?」


「誰とも仲良くならないよ」


俺たちの学年は体術、魔術訓練でグラウンドに出ていた。準備運動をしているとこちらに近づいてくる影。案の定彼らであった。


「ん~強情だな」


どっちがだと思ったが言葉にするのは控えた。


「ならさ、競争しようよ。えっと目印は…あ!あの木に一番早く着いたら俺と友達になってよ」


「俺にメリットがまるで無いんだけど」


「あるよ。君が早く着いたら俺は君に今後一切関わらない。学校行事とかで仕方なく関わるときも必要最低限しか関わらないって約束するよ」


魅力的な提案だ。俺としてはその条件で受けたい。だけどなんだろう…彼からは悪戯好きな子供のような気配がする。勘だけど。でもこれ以上関わってこないのは嬉しい。正直四六時中構い倒されるのは精神を削るから…


「いいよ。その勝負受ける」


「なら決まりだな。ルールはシンプル。自分の持てる力全て使っていい。先に木に触れれば勝ち。簡単だろ?」


「分かった」


「私が判定するね」


踵で引いた真っ直ぐな線。そこに二人で並ぶ。俺たちが並ぶと面白半分で見に来たのか周りに人だかりができていた。


「約束は守れよ」


「当然。そっちもね」


「準備は良さそうね。よーい…ドン!!」


声が響くと同時に俺は足先に魔力を流す。力を込め地面を蹴り上げる。後方に居たクラスメイト達の悲鳴が聞こえた気がしたが聞こえていないフリをした。

俺はただ全力で走った。だけど気づいた。横にも前にも後ろにも彼の気配を感じない。彼を一瞬見た。瞬きの間だった。彼はスタート位置からクラウチングで一瞬にして俺を抜き去った。俺は呆気にとられ、ただ茫然と立ち尽くした。


「ふう~…俺の勝ちかな」


「「おおおおおおおおおお!!」」


後ろからクラスメイトの歓声が聞こえる。だが俺はそんなことどうでも良かった。俺は負けたんだ。


「約束通り、俺と友達になってよ」


「………」


「1人で居たってさ、寂しいだけじゃん?だったら俺たちは死ぬ最後の時まで仲の良い奴らと一緒にみんなで居たいんだよ」


1人は寂しい…その言葉が俺の心にストンと落ちた。


「ね、面白いやつでしょ?」


観戦していたクラスメイト達が彼の下に集まっていき瞬く間に彼は人込みの中心になった。彼には人を惹きつける何かがある。そう思った。


(みんなも彼に心を動かされたのかな)


「彪雅、約束は守る。でも直ぐには難しいから俺のペースで頼む」


「分かった。これからよろしくな!」


「ちょっと私は!?」


泥だらけのクラスメイト達に揉まれ、彼についてもっと知りたいと思った。

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