第三話 繋がりを

「お客様に手伝わせてしまい申し訳ありません。ありがとうございます。助かりましたわ」


「いえいえ、困ってることがあったらいつでもー」


シュ…


「どう、して…?」


「おい!!何してんだよ!?」


俺と鹿目さんは子供の失踪原因究明の依頼で、ある村に一週間ほど滞在していた。だが一週間よくしてもらった宿の女将さんの首を鹿目は何の躊躇いもなく刎ねた。


「こいつは悪魔だ。確証が持てるまで時間がかかったが…」


「でもだからって…」


「俺がこの悪魔を殺さなければ被害はもっと増えていただろう。いいか陸朗、俺たちの仕事は平穏を望んでいる人々から後ろ指を指されてもやらなければならない事だ」


「…」


分かってる。俺が思って感じているこの感情はこの仕事をする人たちにとって不要なものなんだ。 


「だけどな。今お前が感じているその感情は大事なものだ。その人間性を無くしてはいけない。だからお前は見極めろ。俺のようになるな」


「…分かんないよ」


「回収屋が来るまで時間がある。少しだけ昔話をしてやろう」


そう言い、鹿目さんは雲を見ながら儚い夢を見ているように口にした。


「悪魔に憑りつかれた人間は精神を蝕まれやがて魂だけが消失し、残った体は悪魔になる。普通の悪魔は魔力の塊、素になる核を破壊すれば体を構成する魔力が維持できなくなり結果、霧散する。だが、憑りつかれた人間は中身は悪魔でも側は人間と同じ、人格、記憶、言葉、素となった人間の情報を読み人間に化ける。俺はそいつらを殺してきた」


鹿目さんは一瞬、ほんの一瞬…哀しそうな顔をした。


「俺の親友は強い奴だった。同期の中で悪魔の駆除率は毎回トップ。俺はそんなアイツの隣に立っていることが誇らしかった。周りの奴らもそんなアイツを慕ってた。アイツの周りにはいつも人がいた。だから、アイツが悪魔に憑かれるなんて想像したことすらなかった。俺はアイツを殺した。アイツを止められるのは俺しか居なかったからな。そんなもんだ。お前が目指している仕事ってのはな」


「それを聞いても俺は止まらないよ?」


「分かってるよ。お前はとっくに覚悟を決めてんだもんな。なら、先輩から最後に一つアドバイスだ。一人でいるな。誰かと一緒に、お前のことを見てくれる人と一緒に。人との繋がりは大事だ。それは何にも変えることのできない星(たから)だからな」


「…」


俺は分からない。そんな顔をしながら人との繋がりを大事にしろって言う鹿目さんの心が。辛いのなら関わらなければいいのに。一人でいいじゃないか。一人の方が傷つかずに済むじゃないか。


「ガキにはまだ早かったかな」


「子供扱いしないでください」


固い手で頭を撫でてくる鹿目さんの手を払い除けながら答える。子供じゃない。でも、鹿目さんよりもずっと子供である事実は変わらなくて、鹿目さんの言ったことの半分も理解っていなかった。


そして、2年が過ぎた。

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