第二話 悪魔

「瀞さん達を殺した化け物の正体は常世に滞在する悪魔だ」


「悪魔…?常世…?」


「悪魔ってのは体内体外を魔力で構成している言ってしまえば化け物だ。常世ってのは悪魔の住む世界のことだな。実際のところ常世について分かっていることは、一つもない」


悪魔、魔力。そして常世。アニメや漫画の世界だけの話だと思っていた。だがそれは紛れもなく現実で、実際に起こったことだ。俺にその実感を持たせてくれたのは鹿目(彼)だった。


GYAAAAAAAAAAA死


雄たけびを発しながら俺に近づいてくる異形の化け物。人型だが人間の肌のような色ではない黒に近い紫色の体色、赤い目、肩から生えた蝙蝠の翼のような羽、相手を傷つけるためだけに特化した爪や牙。そのどれもが人間とは違っていた。俺は怖気づいた。その生物を初めて目の当たりにしたとき、どうしようもなく怖かったのだ。そいつが爺さんたちを殺した化け物の仲間だって分かってる。頭では理解しているんだ。だけど体が言うことを聞かなかった。自分を殺すためだけに近づいてくる異形の化け物。


座りこんだ俺に悪魔の爪があと数cmで届きそうな距離。背後から一閃。その悪魔は粒子となって消えていった。


「いいか陸朗、こいつが悪魔だ。悪魔は多くの魔力を取り込むために人間を殺す。人間にも魔力が流れているからな。言ってしまえば食事だ。俺たち人間が生きるために牛や豚、ほかの生物を食うのと同じ。悪魔は自身を構成するために魔力が必要、だから人間を殺す。だがその行動が適用されるのは知能の低い下級悪魔だけだ」


・下級悪魔(レッサーデーモン)

知能が低く、自身を構成する魔力の量も少ない。だが一般人よりも強く、例として挙げられる生物はライオンなどの肉食動物である。


「中級悪魔はから人語を理解し、狡猾になってくる。知能が高くなった影響だろうな。会話ができていたって言う記録も残ってる」


・中級悪魔(グレーターデーモン)

下級悪魔よりも体格が大きくなり、構成する魔力の量も下級の約2倍に成長する。攻撃性能も凄まじく、パンチで走行してくるトラックを粉砕することができるほど強力。知能が高く、人語での会話、その意味を理解できる。


「上級悪魔は中級とは比べることができねえほど強い。単純な戦闘能力は中級と大差ねえが、あいつらは自分の魔力を使って魔法を撃ってくる」


・上級悪魔(アークデーモン)

中級悪魔と単純な戦闘能力は然程変わらないが、自身の魔力を消費することで魔法を使ってくる。


・魔法

魔法とは人類がまだ解析できていない力のこと。魔法を解析、術式化し、魔力を持つもの全員が使うことができるように改良されたものを魔術と言う。


前記から分かると通り、悪魔は階級が上がるごとに内包する魔力の量が比例して多くなるようだ。


「瀞さん達を殺した悪魔は中級程かと思っていたが、あれは何か儀式をしたような跡があった。少なくとも中級にそこまでの知能はない。だから上級の個体である可能性が高い。俺の言いたいこと分かるか?」


「難しい…もう少し簡潔に説明してください」


男は最初に出会ったときと同じようにニッと笑った。


「お前には自分の死を選択できるくらい強くなってもらいたいつーことだよ。中級悪魔を見せたのもそのためだ。強くなる上で強さの線引きはあった方がいいからな」


男は未だに腰が抜けて立てない俺の頭をぶっきらぼうに撫でた。固く、大きな手。その不器用な優しさが伝わって来た。


「死んでほしくないなら素直にそう言えばいいのに。あとタバコ臭いですよ」


「うるせえ、今から1年は基礎的な魔術と肉体の強化訓練。もう1年はひたすら実践。俺と一緒に各地方、県市町村に行って悪魔関連の事件を解決していく。残りの1年は一人で任務をこなしてもらう。以上。明日から俺とワンツーマンで修行だ。あと3年しかないんだからビシバシやってくぞ」


次の日から地獄が始まった。魔力の存在を昨日初めて知った俺は自分の中に流れている魔力を知覚するところから始まった。


「俺が今からお前の魔力回路に魔力を通す。いいか?耐えろよ、こいつは糞痛てぇぞ」


「がああああああああああ!!!!」


痛い。全身を針で貫かれたような痛み。視界がぼやけ意識が飛びそうになると同時に目、鼻、耳、口から血が噴き出す。


「人間にはな元々魔力回路が備わっているんだが時代と共に使わなくなった結果、閉じちまってる。それを今無理やりこじ開けたんだ。そうなる」


「ヒュ…っヒュウ…ゲホッ…」


この時俺は決めた。いつかこのいけ好かない糞ジジイをぶん殴ると。


朝、昼、夜、ご飯の最中で全身に流れる魔力回路の知覚と魔力を全身にスムーズに流す訓練。残りの空いている時間は脆弱で貧弱と言われた肉体を鍛えるために走り込みや筋トレ、対人戦などでひたすらに体を動かし酷使した。


3か月ほど経つとその過酷さにも慣れ、少しの余裕が出てきた。吐かなくなったし。だがそれを見過ごすほどの鹿目(おとこ)ではなかった。

そこからの練習メニューは魔力操作と並行して体を動かした。最初はなれなかった魔力の操作と体捌きの同時進行も少しずつ慣れていった。がそこに新しく剣術の訓練が追加された。構えひたすらに打ち込む。相手をする鹿目は一切の容赦がなくダメな部分を弾いてくる。竹刀で生身の体打つか?普通は何か着るだろう!


「お前は特別な人間だ。そこらに居る一般人とは違う。大きな違いとしてはお前に“異能力”っていう特別な力があることだな」


・異能力者

稀に生まれてくる特殊な能力を持った人のこと。例:火を吐いたり、腕を伸ばしたり、透明になったり。魔術とは異なり、誰でも扱えるものではなく体質であり、先天的に発現している者もいれば、事件や事故といった凄まじい経験をした後に後天的に発現する場合もある。


「お前の“異能力”は傷の治りが以上に速い。だから普通の人が体を休めながら何年も懸けて行う体術訓練と魔力操作を数か月っていう短い期間でやってのけた。異能力っていう後押しもあるだろうが元々こっちの才能もあったんだろうな」


いい話風に進めているけど、治りが早くても痛いものは痛いんですけど?


訓練開始から半年、魔術の訓練をしたのだがそっちの才能はめっきり無く、基礎的な魔力操作で体捌きの効率化、刀や拳銃を使った中近接訓練になった。


そこからさらに半年、訓練開始から1年。いよいよ実戦だ。

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