神を信じない俺は
八蜜
第一話 プロローグ
俺が親代わりの爺さんに拾われたのは雪の降りしきる冬の早朝だったらしい。親を亡くした、もしくは親との間で問題のあった子供を引き取って一緒に暮らしていた。所謂、施設だ。雪が空から舞い落ちていた早朝、施設の入り口、扉の前で放置されていたらしい。
俺は親に捨てられた。爺さんからはそう伝えられた。別に悲しくなんてない。親の顔なんて覚えてないし、俺からしたら爺さんが俺の親代わりだったから。
「お前はあれだな、少々人と違うところがあるかもしれんが気にするな。世の中にはそういう奴は五万と居る。わしの知人に連絡しておこう。そいつはお前さんの力の正しい使い方を教えてくれるじゃろう。よーく学んできなさい」
俺は転んで擦りむいたり、指を包丁や紙で切ったりしたとき、傷が異常なスピードで治ることを気にしていた。そのことを爺さんに話した。爺さんはお茶を飲みながら知り合いに連絡を取ってくれた。俺はそのことが嬉しかった。施設のみんなは俺に近寄りたがらなかったけど爺さんだけは俺に真摯に向き合ってくれた。
だからこの光景を目にしたとき、その元凶を絶対に許さないと心に決めた。
白煙。風に乗って鼻を通る血の匂い。足元に流れてくる血の海。施設の子供たちは一人残らず首をねじ切られ地面に突き立った鉄の棒に頭だけが刺さっていた。その棒は爺さんの死体を中心に取り囲むように均等に並べられていて犯人の異常さをより際立たせていた。一目見て分かる。これは人間の仕業ではない。俺は数十分施設を離れた。帰って来た時にはすでにいつもの光景とは程遠い非現実的な光景が広がっていた。
地面に座り込み、胃の中の内容物を吐き出す。吐いて吐いて吐いた。涙も枯れることを知らないほど流した。叫んで泣いて。もう何も出ないほど悲しんだ。その時、俺の心の内から黒い激情が表に出てきそうになった。俺はその感情に蓋をした。その感情の奔流は敵と相見えるその時まで。
「お前さんが瀞さんの言ってた“異能力者”か?」
施設の後始末を黒服に身を包んだ大人たちが行った後、ベンチに腰かけていた俺に煙草を吸いながら話しかけてくる男。恐らく、爺さんの話していた“知り合い”。
「あなたが爺さんの言ってた知り合いの方ですね」
俺はそう確認する。
「質問してるのこっちなんだけど…まあいいや。お前さんはどうしたい?敵討ちするために俺について来るか?」
「いや…爺さんは力の正しい使い方を学んで来いって言ってた。だから俺にこの力の正しい使い方を教えてくれ」
(こいつは気持ち悪いな。気持ち悪いぐらいに前向いてやがる。面倒を任されたと思っていたがこれは…)
男はニッと笑った。
「分かった。本来ゆっくり6年かけて学ぶことを3年で叩き込んでやる。途中でへばるなよ?」
「はい!」
少年、大呀陸朗(おおが ろくろう)が師、鹿目甚(かなめ じん)と初めて出会った日。俺が9歳になる冬の日であった。
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