第2話『近村の畑を荒らす魔物』

 数日後、畑を荒らしていた魔物を退治し、依頼書に依頼主からサインを貰って、魔物を人が居ない場所まで運ぶ。

 朝陽がオレの身体の中から出てくる。

 修道着を着て、そして背中には多くの人間が思い浮かべる天使の翼が生えている。

 手を合わせて組み、目を瞑って祈りを始める。

 天使、そしてシスターからの教えを受けた朝陽のパワーは絶大だろう。


「安らかに、お眠りください」


 祈りが終わり、気絶させていた魔物にトドメをさす。

 

「行方不明になったのは、荒らされていた畑を管理していた男性だっていってたから、間違いないだろうな」

「折角育った野菜もめちゃくちゃだった。……可哀想に」

「近くて良かったよ、本当に」


 オレが出した炎で燃え尽き、灰になって土に帰る魔物だったものを見届け、再び朝陽と1つに─────白夜びゃくやという名の冒険者へと戻る。

 そして冒険者ギルドへ戻り、受付のお姉さんに報告をする。


「良かったです、偶然ビャクヤさんが見えて。村の人が駆け込んできた時はどうしようかと思いました」

「私じゃなくても、対処できたと思うけど」

「……突然で魔物の詳細もわからなくて、お世辞にも持ってこられた依頼料が見合っているかの判断も出来ないので、誰も受けてくれそうになかったんですよ」


 まぁ、話は理解できるけど、それでも、損得勘定関係なしに駆け出して欲しいと思ってしまうのは我儘な話なんだろうか。

 報酬を受け取り、ギルドを後にする。

 

「さてと」


 再び、村に戻る。

 驚く村民に頼み、行方不明になった男性の家族を呼んでもらう。

 すると、オレと同い年くらいの、だから高校生くらいの女の子が出てくる。


「妹のミアです」


 両親が他界し、兄妹仲良く、助け合い、支え合い生活をしていたらしい。

 先程まで泣いていたように目を腫らして、明らかに元気がないミアさんを見て、胸に痛みを感じる。

 どうしてあげることも出来なかったし、どうしてあげることも出来ない、無力な自分に苛立ちを覚える。


「ミアさん。これを受け取ってください」

「え?」


 それは先程受け取った報酬の全て、それに少しの金額を上乗せして入れてある袋。


「う、受け取れませんよ!」

「勘違いしないでください。同情で施しを与えているわけではないです。お兄さんが育てた野菜、畑にあった分で良いので売ってください」

「だ、駄目ですよ!殆どグチャグチャになってて─────」

「では条件を出しましょう。形の良いものを選別して、それだけ貰います。ただ、先にこの金額をお渡ししますので、どれだけ持って帰っても文句はなしでお願いできますか?」

「文句なんて!……い、良いんですか?」

「これは売買行為です。私は買いたいと申請してるので、あとは売ってくれると承認を貰うだけです。どうでしょうか?」

「……お願いします!」


 ということで、お金を渡し、畑に案内してもらう。

 

「本当に、殆どダメになってて─────あ、でもこうしてみると思ったよりも綺麗なものも結構ありますね。まだ成長途中なものもありますが、食べられるものも多く─────」

「いや、駄目ですね」

「……はい?」

「残念ながら食べられるものは無いようです。あ、でも、このトマトだけは食べられそうなんで、貰っていきましょう」

「え……え!?」


 トマトを2つ貰って去ろうとすると、ミアさんに腕を掴まれ止められる。


「……」

「どうしました?もう話は終わったので、畑の掃除を─────」

「ありがとうございました!」

「……はい」


        *


「あ、名前聞き忘れちゃったな」


 先程魔物を燃やした場所へ戻り、灰の上に、トマトを1つ置く。

 

「お疲れ様。偶に妹さんの様子は見に行ってあげるから安心してそっちで楽しくやってくれ」


 トマトを齧ると、水分たっぷりの甘みが口に広がり、惜しい職人を亡くした事を悲しく思い、だけどオレはただ空を見上げ、感謝と労いを送る事しか出来なかった。

 

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異世界生活も楽じゃない @mutukigata

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