第4話 ボクっ娘、見抜かれる

「成績優秀もそれはそれで大変ってことか」


 ふんふん、と納得したように頷く五十嵐部長。大変、だとは思ったことないけど。人から頼られるのは案外好きな方だ。


「別に大変じゃないですよ?雑用なんてこなした方が得じゃないですか、評価も上がるし」


 頼られるということはその分、必要だと思われているということだ。自分の存在が認められているということ。雑用なんて言う簡単なことでそれが満たされるのならいくらだってやる。


「なるほど、頼られるのが結構好きなタイプなんだね」


 それは口に出していないはず……。打算的なことを言って、ちょっと腹黒さを演出したのに。普通の人だったらそこにツッこんでそれ以上は触れてこないのに。


「へ……?」


 だからいつも出さないような間抜けな声を出してしまう。どうしてこの人は見透かすようなことを時折言ってくるのだろうか。ボクが、持っているテクニックを全て否定されている気分だ。


「頼まれると断れない。頼まれることで自分の存在を認められている気分になる。だから、この部への入部ももう一押しすれば押し負けるよね」


 全てをわかっているような物言いに、ムッとする。でも、その大半が当たっていて、悔しい。現にこの部への入部を少し迷っていたところだ。


「い、言わないでくださいっ!」


 必死に出した声は、否定になっていなかった。逆に肯定してしまっているようなものだ。どんどんこの人のどツボにハマっている気がする。


「否定になってないぞ?俺に小手先の処世術なんて通用しないんだよ」


 また口角が意地悪そうに上がる。やっぱり、本音で話していないことがバレている。だって、気に入られるように言葉を選んで関わっている方が楽じゃないか。


「じゃあ、春峰。もう一押ししてやるよ、お前は解決部に入るべきだ」


 真剣な目になって、五十嵐部長が言う。ふざけている時とはまるで違う雰囲気に、心臓が騒ぎ出す。ああ、少し強い物言いに弱いことも見抜かれているんだろうか。


「変な部だって思っただろうし。変な部長だって思っただろうし。早く帰りたい気持ちもあるだろうし。部活をやるつもりもなかっただろう。でも、入部したなら絶対にここが居場所だと思えるようにしてやるよ」


 そんなことを言われたら断れないじゃないか。そんあ自信満々に、確信に満ちた目で言われたら。断れる訳、ないじゃない。


「でも、何も解決できませんよ?」


 そもそもな話、ボクは推理とか特別なことが出来るわけじゃない。この部には不向きな気がするんだけど大丈夫だろうか。役に立てるビジョンが見えないのだけど。


「俺たちだって解決出来ることなんてひと握りだからな」


 五十嵐部長が慰める、というか元気づけるようにボクに言った。ん?勘違いしないで欲しいのは、ボクは仮に入部した時の話をしているのであって熱心に入部を志願しているわけではないからね!?


「それでは、春峰さん」


 五十嵐部長はボクを真っ直ぐに見つめる。あんまり見ないでもらっていいですか……?目、逸らしにくいんですけど……。


「いきなりは難しいかもしれないけれど、やってみるだけやってみよう。教育係は特別に部長の俺が引き受けるよ」


 肩を掴まれて言われる。それって豪華なことなんですか……!?ボクにとってはとんでもなく迷惑な事なんですが……!!


「1ヶ月、春峰さんなら1ヶ月で習得できるさ」


 期間とかの問題じゃない。というか、入部するかだってまだ決めてないし!勝手になんか入る流れで、人の悩み解決する流れになってて……!?


「そして、ぜひうちの部に貢献してくれよ」


 うん、もう確定事項なんですね。わかりました、わかりましたとも。やればいいんですね、やればいいんでしょう!?


  💚・*:..。o♬*゚💚・*:..。o♬*゚💚


「違うっ」


 五十嵐部長が机を手で叩いて立ち上がる。ボクは肩を震わせて、部長の顔を見あげた。思ってたよりスパルタだったなぁ……。


「お客様を迎える時は、笑顔でって言ってるだろう」


 ボクなりに笑っているつもりなのだけど、五十嵐部長的には納得いかないらしい。笑ってるのに……!?頑張って接客しようとしてるのに……!


「まあ、でもお客様と関わる仕事上そういうのは大切ですよね」


 ボクが言うと、五十嵐部長はキョトンとしてこちらを見る。ん?なんか変なこと言った??


「違う、その方が自分がかっこよく見えるからだよ」


 待て、そういうことなのか……?ただの自己満……!?プロ意識とかそういう事じゃなくて……!?


「困った時は眉尻を下げて、謝るような雰囲気を醸し出すと大概の人は許してくれる」


 それはあなたのアイドル的人気も関係している気がするんだけどどうなんでしょう。ボクにも通用するんですか……?ていうか、そういうテクニックあんまり使いたくないんですけど。


「あ、ボクにやっても無意味ですよ?」


 五十嵐部長の顔を見て言う。あまりにはっきり言いすぎたのか、五十嵐部長は若干落ち込んだ顔をする。自分に自信があるのかないのか、一体どっちなんだ……。

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幼なじみを探し出すためにハーレム展開したけれどやっぱり僕の心を動かせるのは幼なじみだけだと思うんだ 月村 あかり @akari--tsukimira

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