第2話 ボクっ娘、勧誘される

「出たいんですけど……」


 ボクが言うと、赤髪の先輩が2人で立ちはだかる。ん?2人?よく見たらこの人たち、瓜二つだ……。


「出ていくの?鍵しまってるわよ?」


「出ていけるの?あなた、隠密か何か?」


 髪型、声、骨格、その他もろもろ全てが一緒で見分けがつかない。双子……ってやつなのかな。というか、なぜか問い詰められてるんですが……。


智季ともきくん、そろそろ教えてあげては?」


 銀髪の先輩が後ろを振り返る。そこには椅子に座って頬杖をつく男の先輩がいた。智季、先輩……というらしい。


「あー、うん。そうだね、春峰はるみねさん」


 智季先輩がにっこりと笑顔をこちらに向ける。何も考えずに見たら爽やかな素敵な笑み。でも、この状況で見るその笑みはなんだか……悪魔のようでした。


「俺は是非、君を解決部に勧誘したいんだ」


 これは勧誘というのでしょうか。いいえ、違います。だってボクは現に閉じ込められるという形で身の自由を奪われているのですから。


「いや、違うね。もう君は、解決部の部員だよ?」


 半ば脅し。ほぼ、強制。私の意思は無視され、待ったナシのこの状況。どうやらボクはとんでもない場所に足を踏み入れてしまったらしいのです。


  💚・*:..。o♬*゚💚・*:..。o♬*゚💚


「智季くん、今日の課題難しくて……」


「それはこの公式を使うんだよ」


「智季くん、ピアノの課題曲が上手く弾けないの」


「俺でよければ練習に付き合うよ」


「あのね……料理が上手く出来なくて。お弁当作ってきたんだけど、味見してくれないかな……?」


「なんでも美味しいと思うけど、そんな俺でよければ喜んで」


 詐欺師のごとく、スラスラと言葉を並べ立てる男子。爽やかな笑み、短く切り揃えられた茶色がかった髪の毛、纏う雰囲気は仕事のできる好青年。その人は、解決部の部長である五十嵐いがらし智季ともき


「智季くん、優しいもんね。だから、安心して食べてもらえる」


 なんだろう、これは。全てにおいて何の解決にもなってないし、そもそも相談に来ている女子たちも真面目に悩んでいるようには見えない。ただただ五十嵐部長が、女子に囲まれて優雅に微笑んでいるようにしか……。


「この子ったら、昨日も道場に残って弓道の練習してたのよ」


夏織かおり姉様!それは言わない約束……!!」


「それで、夕飯よって声をかけてもなんにも反応しないの。自分の世界に入っちゃってね」


「姉様……!!」


 2人の女子がわちゃわちゃと何やら言い合いをしている。真っ赤な髪の毛をハーフツインにして、真っ赤な紅玉ルビーの瞳を持つ瓜二つの双子。その人たちも解決部の部員である火野ひの夏織かおり先輩と夏澄かすみ先輩だ。


「私は姉様に憧れてそれで……」


「なっ……!」


 しょんぼりしたように顔を俯かせる夏澄先輩に、夏織先輩が焦ったような顔を見せる。傍から見れば、何をやってるんだとツッコミたくなる光景だけど……。何を見せられてるんだろう、これ。


「べ、別にバカにしてる訳じゃないんだから……!勘違いしないでよねっ」


「夏織姉様……!」


 王道ツンデレと、若干百合百合しい妹……。いや、なにギャルゲーのキャラクター分析みたいなことをしてるんだ。ここは、解決部だったのでは……??


「今日も仲良しで尊いっ!悩み吹っ飛んだよっ」


 相談をしに来ていたはずの男の先輩が言った。これを見て吹っ飛ぶ悩みってなんでしょうか。そもそも、これを見るために来ているのであって悩みなんてないのでは……?


「皆、それぞれの形で悩みに答え、お客様には各個人の性格にフィットした部員をご指名いただく。うちの部は、そういうシステムなのです」


 引き気味で、ぼーっと部の雰囲気を見ていたボクの隣にやってきた先輩。透き通るような銀色の髪の毛を顎のラインで切り揃え、蒼玉サファイアの瞳を持つ女子生徒。この人は、解決部副部長の雪白ゆきしろ冬花とうか先輩だ。


「1年生の部員はいませんし、全員成績が目立つほど悪いということもないのですがそこに特化した部員を欠いていまして」


 この人も一見普通そうに見えるけれど、さっきから表情が1mmも動かない……。冷静に説明してくれるのは今の状況からしてありがたいけれど、なんだか怖さすらある。なんでこの人がこんな変な部の副部長に……。


「是非、智季くんに協力してくださると幸いです」


 無表情なまま、頭を下げられた。そんな真面目な頼み……!?でも、この人も軟禁に加担していた人だと考えると迂闊に信じるのは危ないかもしれない……。


「そうだぞ〜。ずっと目をつけてたんだ、よろしくね」


 後ろからいきなり声をかけられて、肩が波打つ。男の人の声だったので、すぐに部長の声だとわかった。多分、一番の変人であろう五十嵐部長だと。


「驚かさないでください!」


 耳元で発された声に未だに心臓がバクバクしている。ていうか、変な人すぎて掴めないんだよ……!建前も見抜かれそうで、なんだか怖いし。


「ん?驚いちゃったの?可愛いねぇ」


 誰か、助けてください。なんでこんな変な人にボクの心臓は騒がしくなってるんですか。これが、吊り橋効果ってやつなんですか!!??

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