幼なじみを探し出すためにハーレム展開したけれどやっぱり僕の心を動かせるのは幼なじみだけだと思うんだ

月村 あかり

第1話 ボクっ娘は、出ていきたい

存在を知ってはいた。全校の間で有名だったし、ボクもそこまでそういうものに疎いという訳では無いし。だから、知ってはいたのだけれどまさか関わることになるとは思ってもみなかったのです――。


「ようこそ、今日はなんの解決のご依頼かな?」


 ボクはただ、先生にノートを集めて持ってくるように言われていて方向音痴なばっかりに教室の場所が分からなくなってしまっただけで。だから、この教室に迷い込んでしまっただけで。こんな変な部に用はなかったのです。


「ん?なんか困ってない??」


 赤髪の……確かあの人も有名人だと思うのですが、その人がこちらを振り返って首を傾げました。そう、困っています。だって、ここに用があった訳では無いのに目の前に興味津々な様子の先輩が立ちはだかっているのですから。


「うるさいぞ、夏織!ただ口下手なだけかもしれないだろ」


 そう言ってまたにっこり笑って彼はこちらを向きました。どうして、そんなにご機嫌なんですか。出来れば、ここから出してください。


「よく来たね、1年A組春峰はるみね彩芽あやめさん!」


 確かに彼の口から紡がれたのはボクの名前であたふたしてしまう。クラスも名前もピッタリボクだ。でも、ボクとこの人は初対面なはず……。


「どうして、名前を……?」


 ボクは首を傾げた。高校に入学して1ヶ月足らず。全く、不思議な場所に迷い込んだものです。


「入試成績1位、その後も成績はクラス首位をキープ。全国模試でも上位を取っていましたよね」


 脇から出てきた銀髪の先輩が言ってきた。その情報も間違ってはいない。でも、それをたいした関わりのない先輩に詳細に知られている事実が怖いのだ。


「新入生のデータはだいたい頭に入っていますよ」


 無表情で情報をスラスラと述べるものだから、さらに怖い。新入生、全員分……!?200人は優に超えているだろうに、それを全員……??


「え、えっと……」


 どう反応したらいいものか。ノートは重いし、怖いし、でもそれを正直に言う訳にも行かないし。なんだか面倒なことに巻き込まれたような気がする。


「俺はそんなに記憶力がいいほうではないけど、それでも覚えてる。特徴のある女の子を覚えるのが俺の趣味だから!」


 1番最初の男の先輩が両手を広げて言った。それを言って引かれるとかは考えないんだろうか。実際にボクは引いている。


「成績が優秀ということは頭の回転も早いんだろうなぁ。記憶力もいいかもしれない、人との関係を築くのが上手かもしれない、とかね。色々考えるのは楽しいよね」


 胡散臭く口角をあげて、微笑みかけてくる先輩。ボクは、冷めた視線を向けながら頷きづらさを感じていた。おかしい、ボクなら先輩のひとりやふたり、余裕で手懐けられるはずなのに。


「そんな有能な新入生ちゃんにも自分だけでは解決できないこともあるんだね」


 先輩の言葉にハッとする。そういえば、まだこの人たちはボクが悩み事を持ち込んできた人だと思っているのだ。いわゆる、依頼者というやつだと。


「専属は誰をご指名かな?ロリ系?クール系?ああ、それか……」


 先輩が部員を指さしてボクに尋ねる。その属性、問題を解決するにはいらない情報だと思うんですけど……。好みの女の子探すんじゃないんだから。


「部長の俺、かな?」


 からかわれているんだろうか。そんな疑いを向けてしまいそうになるほど部長に表情は全てを見透かしているようだった。見透かしているならば、ボクが依頼者出ないことを見透かして早く帰して欲しいところだけど。


「申し訳ないんですが、ボクは――」


 ボクの顔を覗き込んでくる部長の顔を真っ直ぐに見据える。年上ははっきりものを言って来る年下を案外好きだったりする。意見する時に遠慮は不要だ。


「あやちゃん♡あやちゃんはぁ、私を選んでくれるのかな??」


 ボクの発言を遮って間伸びした声が聞こえてくる。栗色の髪の毛をツインテールに結んでいる彼女は先輩のはずだけど……。童顔が際立って、同い年か、年下のように見える。


「っていうか、あやちゃんってなんですかっ?」


 焦って別に聞かなくてもいいことを聞いてしまう。だって初対面で謎のニックネームつけられてるんだもん!さすがのボクだってキャパオーバーだし……!


「の、ノートを先生に提出したかっただけで!だから、この部には用はないんです!」


 ボクはようやく言い放って部屋を出ようとした。うん、このままなら出ていけたはずなのだ。何事もなく、この部との関わりもこれで終わりなはずだった。


「お邪魔しまし――」


 ドアに手をかけると、ドアが動かないことに気づいた。あ、あれ?確かにこのドアから入ってきた、はずなのに。


「あら、鍵は開いてるはずだけどね」


 赤髪の先輩が言う。いや、でも現に開いてないし。ビクとも動かないし。


「閉まってるなら、何か問題でもあったのかな?」


 な、何をシラを切ってるんでしょうか……。閉められるのはここの部員であるあなたたちだけでしょうに。ボク、どうして閉じ込められたの?


  

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