第13話 焦り

光姫みつき、─────!」


 その声ではっと意識を取り戻す。

 そうだ、私は、計画、計画は…、


「………れい、あ…?」


 目の前で声をかけたのは星魔黎亜せいまれいあ、ならここは病院だ。どうして、病院に…?


「今朝病院の前で倒れてたんだぞ…!」


「前、で…?」


 もしかしなくともあの方が運んでくれたとでも言うのか。世話焼き…それとも親切…?


「随分魘されてたし……」


 魘され……?

 腑には落ちるが、魘されるとかそんな安っぽい表現じゃない。


「……でしょうね、あんな、あんな………」


 その先を紡ぎたかったがぐっと堪える。言葉にそのまま乗せてしまったら泣いてしまうだろう。絶対に、嫌。


「………永夜の坊ちゃんの事だけどな」


 その様子を見て察したのか永夜の事を話し出す。流石、生まれた時から一緒にいるだけのことはある。


「調べる限り彼奴は無敵人間だよ」


 白衣の胸ポケットからライターと煙草を取り出し火をつける。…ここ病院。


 ふぅ〜と息をつき続ける。


「人外は絶対悪と信じて疑ってない。怪我はあるが、それでも最強だよ。自分の行為に対して何の疑問も持たない。刃を持つ上でそれは重要な事だ。」


 言いたいことは分かる。

 最強とは決して力の事だけを言っているわけじゃない。精神力も重要な要素。


 力だけで言ったら誠也は弱い。まだ成長の余地はある。強いのは、その圧倒的なまでの精神力。いや、不屈の心、正義感。


「その刃はちっとも鈍らない。必ず仕留める。何故なら精神が鈍らないからだ。」


 けどそれは最弱でもある。


「逆を言えば分かりやすい。人外=悪という根底さえ揺らいでしまえば鈍る」


「まさに紙一重」


 ふんっと鼻で笑う。そんな浅はかな考えであの刀を振るっていたと思うと腹が立つ。あの情景を見てしまったから余計に。


「……ねえ、黎亜。…あいつを殺しなさいよ」


「………本気マジ?」



 病院の綺麗で柔らかい布団を握る手に力が入りワナワナと震える。


「本気かどうかなんて貴方の瞳なら分かるでしょう!」


 瞳を通さずとも本気かどうかなんて分かるでしょう、そこまで貴方は愚かじゃない。


「剣があれば、余裕でしょう。あの刀はこの世に2つと無い奇跡であり軌跡、最上のもの、けど使い手が若すぎるのよ」


 早く、早く早く、何が人外は悪よ。気持ち悪い、忌々しい、どちらが悪かなんて明白でしょう?!


「ま、待て、頭を冷やせ。焦りすぎなんだよ光姫みつき


「何を言ってるの、私はいつでも冷静よ?」


 あんなものを見てしまった。早く殺したくてたまらない。私にも、体力が、力があれば一瞬で消し飛ばしてやれるのに。


「──────」


 沈黙。


 星魔は竜の血筋。竜の目に宿る力、それは他者の本音を見抜く。心で思っていることが蓋をしていたとしても見える。


 だから目の前の少女の本音も焦りも、悲しみも、憎しみも、全て見えていた。


 本音が見えるのは良いことばかりじゃない。


「……殺して、お願い。殺して。あの、あの刀を本来あるべき所に返して。アレは、アレは…」


「人が握っていい代物じゃない。」


 その言葉は肯定を意味した。


 同時に覚悟も決まる。

 最悪死んでも構わない。と考えれば安いものだ。

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