第12話 供物
季節は春。夏の足音が聞こえてくるので春と言い切るのは少しだけ無理がある。
蒼天に輝く月輪は人工的な明かりは不要と言い切っている。太古の時代では明かりとしてあの月は誇らしく輝いていたのだろうか。
「は、────ふぅ」
ザクッ、ザクッ、と地面を只管に歩く…いや登る音がこの静かな夜に木霊する。
音の持ち主は
けど今は必要なんだ、自分自身の存在価値、目的に関わる。
己の血筋を辿った先に存在したその高潔な精神を引き継ぐ為に。
「は、ぁ、はぁ……」
その一心でやがてこの山を登りきった。
後ろを振り返れば忌々しい罪の箱庭、大昔に負った罪の事など知らぬ存ぜぬで輝く街の灯り。
「─────」
けど、美しい。美しいのだ。
悪いモノだから妖しく美しいモノだと思うけれど、美しいのだ。
その美しさは数多の犠牲の上で成り立っているものだというのに。
だからこそ美しいのか、だからこそ目を惹かれるのか、それとも……思いつかないから分からないけれどそれ以外のものなのか。
「─────ッ?!」
背後────大自然である山の中から異質な気配。
その気配はまるで蛇の如く体に絡みつく。金縛りという訳ではないのに動けない。本能が訴えている、振り向いたら死ぬと。
ドクンッと心臓が、脳が、全身が、全細胞が逃げろと囁いている。体も頭も動かない。
────これで、弱体化していると言うのか
「(呼吸、呼吸ッ…!)」
私は全てを知っているわけじゃない。長く続くこれまでの時を知っているわけじゃない。でもこれ程までの威圧を出しながらも一切痛みも傷もない。
傷つける意思は相手にはないようだ。あったらとっくのとうに死んでいる。
そう、そうだ。出しているのは威圧だけで、殺意じゃない。大丈夫、大丈夫、きっとうまくいく。
「────ね、ねえ、私の血、価値があると思うの。あの魔王の末裔…よ、これでも」
カラカラの喉で必死に言葉を紡ぐ。ヤケクソになってはいけない、けれどヤケクソに、理性なんて持たなくていい、けれど野性的に。
「私は、私は全てを知らない。けどこれだけははっきり言えるの、」
背後の気配はまだそこに居る。聞いてくれている。
「私はこの街が大ッ嫌い!のうのうと生きているこの地の人間が、命が許せない、何故って、ずっと語りかけてくるの、裁け、復讐しろ、罰を与えよ、って」
不意に相手の威圧が収まった。変わりにこちらを入念に観察する目線を感じる。
「きっとこれは、私の感情でも声でもない、けど私の感情で声でもある。…理由は、その、遺ってなくて、探したけれど……貴方の、貴方様の力になりたい、間違いを正すのは当然でしょう…?罪人が囚人になり罪を償うのと一緒で」
偉いことを言ったけれど私は裁判官でもなんでもない。この地に生きる生命の1つに過ぎない。矮小な存在の1つでしかないけれど、そのなかで全力でやれることはやる。
それが私の、私達のポリシー。
「…魔力は血にも宿る。普通なら宿らないし宿ったとしても希薄。でもそれは人間や獣の存在だけ。竜や神と言った大きく、強力な力を持つ種は宿る、それも大量に。……使って、えぇ、是非お使いください。それが私達の願いです。」
言いたいことは全て言った。同時に現状やれることもやった。
後は背後の存在の意志によるものだけ。考える、探る気配と視線。
受け入れられないのならまた新たな手を考えるだけ。絶対に諦めない、絶対に。
刹那、首元に走る痛み。「あぅッ…?!」と小さく反応するけれど徐々に視界が歪む、歪んで、真っ黒に、なって─────
❖
─────これ、は
ぼんやりと、何かが巡る。
なんだろう、これは、何…?
─────私……?違う、アレ、は
巡るものは記憶。でも自分のものじゃない。ぼんやりとしていて輪郭は正確に捉えれない。でも、人……人物。
─────あぁ、コレ、これはきっと…
……どうして、どうして。
こんな
彼等が、彼女等が何をしたの。一体何をしたの。貴方達に1度でもその牙を向けたの?何故、何故、何故。
どうして、どうして……!
貴方達を、ただ、愛しただけじゃない────!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます