第11話 人外とは

 人外は悪、裁かねばならないモノ、人の道から外れたモノ、斬らなきゃいけないモノ。


 でも病院で見た患者に寄り添う人外、懸命に働く人外を見て何がなんだかわからない。


「………」


 …昨日はというより昨日の夜はあの老婆の仇をとった。

 人外はそれ程強くはなく、魔法も使わない。思考も短絡的で人間を襲う以外の意識を持たないようだった。


「………っく、」


 伸びをして思考を1回リセットしようとするがやはりよく分からない。唯一出たものは「あったまいてぇ…」だった。


「今何時だ…」


 まだ疲れが残っている体を引きずって誰かしらに聞こうと起き上がる。


 起き上がったその直後くらいだろうか、ドタドタと玄関の方から足音が聞こえる。

 そしてその足音は迷いなく自室の前で止まり、


「おっはよ〜〜〜っ!誠也!!!!」


 妙にテンションの高い水樹が自室の襖を勢いよく開けたのだった。



 ❖



「朝からうるせぇんだよお前は」


 あの後拳骨を1発お見舞いした。

 そのせいで拳が痛い。これでタンコブ出来たらどうするんだ、手は大事なものなんだぞ。


「ごめんだけど手加減しても良くない?…すっごい痛いんだけど」


 知るかよ。朝から騒ぐお前が悪い。


 言っても無駄な人間性な事は痛いほど知っているので謝罪を求む声を無視して着替える。


 寝巻きは所謂和装だが私服は洋にしたい。

 多分自分は拘りが強いんだと思う。


「…で?なんか浮かない顔してるね?夢見でもわるかった?」


 そんなに浮かない顔してたか?と思ったが長い付き合い、そんなのすぐ分かるのだろう。


「夢見は悪くない。……布団片付けるからそこどけ」


「じゃあ何でそんなに浮かない顔なのさ」


 理由を話すまではどかないと言う様にどく気配は無い。…理由話してもどく気は無いだろうな。

 人の布団で寝るのは嫌だとか言っておいて僕の布団だとよく寝るからな…こいつ。


「……色々考えてた」


 どうせどかないなら布団を座布団変わりにした方が良いと思い、布団の上にどっかりと座る。

 男2人が布団の上に座るというこの光景、異質というか、なんというか。


「ふぅん」


 色々とはぐらかして答えたのは自分でもよく分からない。

 立場がもう違うと少し意識してしまったからかもしれない。


「……君がそうやって抱え込んでるくせに適当にはぐらかすのは余っ程なんだろうね」


「…まあ」


 この反応の感触は言うまで何も言わないと言う事だろう。ありがたいがその優しさが妙に痛い。


「…で、朝からなんでお前は上機嫌なんだ」


 優しさから逃げるように朝からの異様なハイテンションの理由を聞いた。


 不自然な事じゃないが不自然と思った。撤回する気もないのは少しでも気になったからだろう。


「ああ、それね」


 するとぱっと花が開くようにテンションが上がったようだ、声のトーンが上がった。花が開くという喩えより花が爆発するという喩えがあっているかもしれない。


「凄い情報と資料を見つけたんだよね〜!」


「はあ…」


 何時か聞くの忘れたが朝からこのテンションについていけるほど朝に強くは無い。


「情報っていうのは君を助けた男について。君、気になるでしょ」


「気になるが…」


 そこまでハイテンションでいられるようなものか?普通に見つけたと昼頃に訪ねてくればいいものを…。


「その男の名は神在雷かみありあずま、最低でも60年は生きているんだって」


「神在…」


 聞いた事のない名前だ。当たり前だが。

 60年は生きている…薄らとある記憶を辿っても20前後の若者の顔しか出てこない。


 人ではないんだろうが人外特有の嫌な気配もなかった。どちらかというと病院で見かけた人外のような、暖かさというか…。


「まあ聞いたことないだろうね、無理もない無理もない!遠い昔にこの土地を去った神の子孫だそうだから!」


 神の子孫…と言うと自分と似たようなものなんだろう。

 似ているが治癒魔術は扱えないし、ましてあの威力をたたき出す自信もない。


「随分詳しいな。名前だけだと思ったんだが」


 よくぞ聞いてくれました!と期待に応えてしまったのか益々テンションが上がってしまった。


「幽冥の当主が教えてくれたんだよね!知ってるでしょ?幽冥」


「あー……」


 寝起きにプラスしてこのハイテンションの受け皿。働くものも働かないだろうが。


 幽冥…幽冥……

 記憶を辿ってその答えを探す。そう、確か…


「ハデスとやらの子孫だっけ…」


「ご名答!」


 ヤバい。疲れもあるのにこのテンションを相手にするのは相当キツイぞ…。


「その幽冥の当主が言うには是非君に会いたいと」


「つまり会いにいけと…?」


 何故会いに行かなければならないのか。何の関わりもないだろ…。


「永夜の始祖についても知りたいでしょ?」


「あーうん」


 相槌すらうつのが面倒臭い。

 大体なんで永夜の事を幽冥が知ってるんだ、永夜ですら知らないことを幽冥が知ってるのもおかしい話だ。


 会いに来いというのもおかしい。

 そんなに伝えたいことならば永夜の戸を直接叩けばいいものを…。子供の当主だから舐められてるのか…?


「あーそれでね、資料というのはねぇ…」


 あ、無理そう。

 そう思った時には遅かった。二度寝を開始してしまった。そのせいで何を語られたのかよく分からない。


 途中無理矢理起こされた記憶が薄らとあるがそれまでなので内容なんて聞いちゃいない。


 夢見は悪くなかった。

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