第8話 家と言うもの
「本当に君は無茶をするね!馬鹿なのかい?」
「うぐ…」
目が覚めたら橋の上で気を失っていたらしくそれに朝一番で気づいた水樹によって自宅に運び込まれた。
そして今さっき目覚めたのだが目覚めた瞬間にデコピンをくらいこうしてお叱りを受けているところだ。
「自分より格上と会ったのなら撤退するべき。君が死んだらそれこそ終わりだからね?」
「…う」
ぐうの音も出ない。
撤退して応援を呼ぶべきだったのだがその後の被害をどうしても考えてしまって出来なかった。
でも所詮は一般人、命の重みは違うと言いたいのだろう。自分はそうは思わない、命の重さは平等だと思うのだ。
「大体ね!刀は肌身離さず置いておくべきなんだよ特に外にいる時は!」
「そ、それは……はい」
封刀・黄昏は永夜家が代々受け継いできた権力と誉れの印。失くす事なんてあってはならない。
失くしたなんてことがあれば命をかける覚悟をもって探さなければならない。
「君はちょっと天狗になってるんだよ」
確かにそうかもしれなくて反論も出来ない。
でもありがたいと思うのだ。自分を叱ってくれる存在と言えば君しかいないんだから。
「……でもあれじゃないか僕が死んだら終わりだなんて…特に
「君それ本気で言ってる?」
呆れた、と言葉にこそしないものの顔に書いてある。
ぶっちゃけ自分は特例でなってしまったから知識があまりない。
本来なら封印業にかかわる直前の歳に全て詰め込むのだがそれもなく、封印業に関わることになってしまった。
「……まあ無理もないか、知識よりまずは鍛錬だもんね。命を救うのは知識じゃなくて鍛錬というのも分かるし」
ぶっちゃけ叱られるより同情される方が心にくる。
「僕も多くは知らないけどね」
「だったらそのドヤ顔をやめろ。恥ずかしいぞ」
「でも君とは違って何の苗字があるのかは分かるかな。少しだけね」
苗字、か。
それは始祖を表し、始祖との繋がりを示す大切なもの。
例えば永夜家はこの町の名になるくらいの偉業を残した始祖だ。但しその名は色んなものがあるので正式名称は未だ不明。大体その偉業とやらも真偽不明である。多すぎて。
ただ1つ言えるのは、黄昏を振るって争いを止め、人々を導いた神ということ。
「君はどのくらい知ってるんだい?」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる水樹。これは間違いなくマウントをとる時の表情だ。
「明星と辰星……星魔はちょっとしか知らないな…」
「流石に友人と許嫁くらいは知ってるんだ」
苗字を知るということはその家の神話を知ること。流石に深いところまでは知らないし、ぶっちゃけ明星より辰星の方が知ってるまである。
こう見ると自分の知識がどれほど浅いか知らしめてくれる。結構ありがたい。
「じゃあ少しマウントするね」
「態々言わんでいい」
❖
水樹から解説された苗字は
星魔、
の5つ。
無論これ以外にもあるが自分が知らない中で特に有名なものと言われたが水樹自体もこれ以外は知らない可能性がある。
神話の数だけ苗字があるという事だし全部知ってる者は数える程度だろう。
星魔は所謂明星の分家であり始祖はシャルルマーニュと言う。
シャルルマーニュは明星の始祖であるルシファーとその弟に拾われた為分家扱いだと言う。
始祖のなかで一番有名な話は覇王伝説。
永夜の始祖が王位を退いた時反発し、当時の生き物の半分を滅ぼし覇王へとなり永夜の始祖の意思を受け継ぐことを行動で示した。というもの。
現在の当主は
皇は虚弱体質の者が多く生まれる血筋で自分のように特例でなることが多い。その寿命は長くても25前後だと言う。
始祖はアーサーと呼ばれる騎士。彼にまつわる逸話というものは多くはないが受け継がれているものが2つある事からかなりの力を持っていたと予想できる。
現在の当主は不明で元々秘密主義らしく謎に包まれている。
妖美は皇の分家…というふうに扱われている。昔はそうじゃなかったらしいが1度滅亡の危機が訪れ、皇の分家になる事で滅亡を躱した血筋。
始祖はモルガンと呼ばれる魔女で所謂悪役でアーサーや永夜始祖に対してかなり攻撃的だったという。
皇と同じく秘密主義で受け継がれているものも分からない。当主の名前自体は公開されており
畔は賢者の血筋。永夜町を取り囲むように存在する森を管理する家であり、そのなかで1本だけ存在する神木を管理している。
始祖はミーミルと呼ばれる大賢者でなんと今も生存しているらしい。だが多くは語らずあまり干渉もしない。
現在の当主は不在。子がいないという訳ではなく幼すぎて当主にする事を大賢者が反対している。一応名は
幽冥は冥王の血筋。現在どこに居を構えているのかさえ分からない、一言で表すのなら影がうすすぎて存在しているのかも謎。
始祖はハデスと言い、そのハデス自体逸話も少ないと言う。有名なのはハデスの嫁を巡って永夜始祖が巻き込まれたというもの。どのような巻き込まれ方をしたのかは不明。
現在の当主は不明だが最近になって動いているという。
❖
「…とまぁこんな感じ?」
「かなり多いんだな…というか不明の部分が多くないか…」
永夜の始祖の名すら分からないのでブーメランすぎるが。
「だって僕封印業に関わってないから」
「そういう…」
辰星さえ知らないことは一般からみてあまり重要では無い。逆に知ってることは常識と言って遜色なく、重要であること言うこと。
「ちなみに今言った血筋の中で発言権が強いのは畔、力が強いのは星魔だ」
「確かに…?」
畔は納得出来る。
始祖である人物が生きているからだ。神話の時代から生き抜くのならそれはそれは強いだろう。現に当主不在でも問題ないとしているのだ。
だが星魔が力が強いのか…病院経営しているからか…?
「そして全ての家をまとめるのが君。何か問題を起こした家を処罰するのは君だ。永夜始祖がそうであったようにそうするんだ。何故なら当主とはそういうものだ」
「……始祖の名を背負う、と?」
「そゆこと」
その名が分からないが…当主になるとはそういうものなんだろう。
始祖の権威を背負って、人外を討伐する。理由は恐らく力を借りるため。
物理的な力じゃなく所謂心の支えとして。…その心の支えがある畔はなんなんだ…。
そういえば、と思い出した。
「今言った家の中に雷を扱う金髪の血筋は居るのか?」
目が覚めた時腹の痛みがなくなっていたので触って確認したのだが傷がなかった。まるで最初からなかったかのように。
「雷……?……金髪は皇や星魔がそうだけど…雷は聞いたことないな」
水樹はまだ関わってすらないから知らないのは当たり前だが、雷のあの威力…星魔の実力がどれ程のものかは知らないが果たしてその上を行くのか?
「……名前とか聞かなかったのかい?」
「聞いてない。……だが治癒は使える、と思う」
「治癒って……」
驚きを通り越し無表情になる水樹。
無理もない。治癒は魔法の域ではないからだ
「魔術の域だし予想として大賢者ミーミルが使えるだろうけどそれ以外は知らないよ?大体魔術が残ってる事自体すごい話だし」
予想通りの返答だ。
魔術を習得するには全ての属性の魔法を扱わなければならない。派生属性は習得しなくても可能だが人が持って生まれる適正属性は2つ。
適正とはこの属性に向いている、簡単に言えば得意なもの。
不得意なものは当然習得がかなり難しいが反対に得意なものはその人にとってかなり得意なもの。
向き不向きを超えて全ての属性を習得するという事がどれ程非現実的か。今この世に魔術を扱うものが居ないという事が何よりの証拠。
神話の時代から生きている大賢者は表舞台にほとんど出ない為予想になるがおそらく扱える。何故なら魔術を扱う者が沢山居た神話の時代の生命だから。
「……面白いね、それ。黙って僕が探ってみようか」
「は?」
親父さん、当主に黙ってやるって言うのかお前。
学園爆破をしてきた奴なら可能かもしれなくて一言しか返せなかった。
「だってほらワクワクするじゃない?」
「……お前はそういう奴だったな」
辰星水樹という奴の行動原理はそうだった…ワクワクするかしないかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます