第5話 明星と永遠
人外を切り伏せた。その後は何となく橋に居た。
本来は色んな場所を見回り、居れば倒すという事をしなければならないが義務でも無いため橋に居たのだ。
不真面目かもしれないがいい感じにサボっていかなけりゃ苦しくなるだけ。若造だし許してくれるだろ。
というのは建前。
本当は証言者である慎吾に仇を取ったと一言言いたかっただけだ。
別に倒した旨を伝えなくとも良い。そんな時間があるなら早く人外を減らせ、そんな世界だこの封印業とやらは。
相手も人の心なんて持ってないのでこちらも人の心を多少捨てなければならない。
陽が登るまで橋の真ん中で川を見ていた。
この川の名は
人間達が住み、新たな土地を求めて森を開拓していく途中で川にした。長い長い年月がもたらす自然の力でできたものでは無い。
元は森だった由縁か未だに骨が見つかる。その骨は人より大きいものから小さいものまで様々。
「今何時だ…?」
対峙してからの時間もそもそも見てないので分からない。一晩中ここに居るつもりだったがあと何時間居れば良いというのだろうか、本当に後先考えない。
「(まあいいでしょ…見張られてるわけでもないし)」
嵐のように日々が過ぎ去って行ったから物思いに耽ることも無かった。休むという名目で耽っても構わないだろう。
❖
「本当に、本当にありがとうございます……!」
霧がかかった早朝に慎吾がやって来て早々に礼を言われた。それも深々と頭を下げて。あと涙もすこし溢れていた。
「俺だけじゃ、どうしようもなくて…!」
「当然の事をしたまで…だから」
頭を下げてくれ。なんか、なんか申し訳ないんだ…!
でもこう感謝されるとやはり人外は悪なのだろう。
いや、考えるまでもないか。大切なものを奪ってくものはどのような理由があれ悪だ。
❖
家に帰ったのは9時頃。
朝を食べていないので結構お腹が減ってる。いつもより空腹感を感じるのは頭と体を使ったからだろう。
「(腹減った…がっつりといきたいが食べ過ぎも良くないしな……)」
頭の中でがっつりといける食べ物を思い浮かべながら玄関で靴を脱ごうとしあることに気づく。
「ん?」
女物の靴。この永夜の家を出入りする女性と言えば…
「
朝から来ていたのだろうか、だとしたら申し訳ないな。待たせているという事だし。
色々話したい事もあるしこの機会にどうにか話をしたいが…
「初にして怪我なしとはだいぶ運がいいのね?」
「それは…褒めているのか」
居間に入って聞いたものがこれだ。労いなんてされない。分かりきっていたが心は硝子だぞ。
「褒めている訳ないでしょう?……野垂れ死んで欲しいくらい」
……心は、硝子だぞ
「……僕が死んだら今度こそ世がひっくり返るだろう…」
「
あ〜やだやだという言葉が顔に出ている。それだけじゃなく此方を汚物のように見下す。
初めは恥ずかしがり屋なのかと思ったがどうもそうではなく本当に心の底から思ってるっぽい。現に優しい言葉も行動もされた事がない。
「…死んでも困りますが」
おっと?
「この私に嫁げと言うくらいの実力は最低でも持って欲しいですから」
つまりそれは無価値のゴミより価値があるゴミの方が良いということですか光姫。
その言葉が捨て台詞だったのだろう、さっさと玄関に向かってしまった。
「……はあ」
出会ってからこの調子だ。えーと数えてないけどだいぶ年月が経つのに。
溜息も出てしまう。
「(性格があわないのか?)」
と自分自身は解釈している。
水樹とは普通に話しているし、どうも自分だけ当たりが強い。
「(あーでも父さんが言ってたな…明星と永夜は折り合いがどうも悪いと)」
腰に差したままの刀を傷つけぬようそぉ〜っと下ろし思い出す。
永夜に跡継ぎなる男児が生まれた時、明星の女児から許嫁を選ぶしきたりがある。
これは永夜の始祖が明星の始祖を嫁に迎えたことをなぞらっていると言う。
始祖達の時点では夫婦仲はとても良く、そして唯一の好敵手と記されている程平等な関係値だったと見られているが多くの諸説がある。
永夜の始祖は浮気者だったとか明星の始祖は本当は永夜の始祖を愛していないとか、色々。
「(確か、明星の始祖の名は……)」
うーんと悩むまでもなくすぐ出た。
名はルシファー。
氷属性を発見し、扱った数少ない人物。そして地獄を統べた魔王という恐ろしい側面を持つ反面、
永夜の始祖に比べ多くの逸話が残っている。
最大の逸話が神の半分を葬った事。
神話の時代、神はそこら辺に居た。人より神の方が大きく、強大だった。そして神は永遠不滅、余程のことが無ければ死なない。
その余程の事をルシファーは起こした。
白銀の槍を持ち、氷を操り、悪魔を統べ、卓越した知識と実力で神の半分を文字通りぶっ飛ばした。
「(逸話も永夜の
だが最期は謎につつまれているのもルシファーの特徴。どうもぼやかされているがその伝説の濃さから言って誰も立ち向かえないだろうし安らかだったのではないか。
「(諸説あるにしろ永夜始祖との目立った衝突の記録はないし)」
もしくはあったが記録されるまでもなかったか、自分が興味なくて覚えてなかったか。
多分嫌われている原因はここだろうな…。
「よいしょ、っと」
居間にごろり、ここは日差しが良い具合に差す。疲れた体にはこれ以上ない安らぎをもたらす。
自室で寝ろよとは自分でも思うが少しの怠慢が人生を華やかにする、いつまでも張り詰めていては疲れるだろう。
「当主様〜…」とどう声をかけたもんかと悩む人の声を余所にこれは昼夜逆転しそうだ、とゆっくり夢の中へ入っていった。
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