第2話 永夜の当主
父が死んだ
それは紛れもない事実で覆しようのない現実、否定することも目を背く事も出来ない。いや、あってはならない。
人の生死を否定するのも、目を背けるのもしてはならない。どんな始まりであれ終わりであれ、受け止めなければならない。それが遺された家族の役目というもの。
そしてもう一つ、遺された家族の役目はきちんとしたお別れ、"葬式"をしなければならない。自分たちだけでなく、周囲の人がきちんと別れを告げ、これからを生きていくために。
⎯⎯⎯父の遺体はなかった
自分達だけでなく、周囲の人さえも別れを告げられない状態。未練しか残らない。
⎯⎯⎯何故、遺体がない
⎯⎯⎯そもそもどのような形で生死を判別した
⎯⎯⎯答えろ、答えてくれ
しつこくそう問いた。
普段声を荒げない人が荒らげたもんだから一に戸惑い、二に考え、三で説明した。
今思えばかなり残酷な所業だ。同じ屋根の元で暮らし、見てきた。血縁の関係はなくともその形は家族と言うに相応しい。
その家族の死に様を言えとは、残酷にも程がある。
遺体がない理由、それは喰われたからだった。
混乱は突然に、黒く溶けた人外が侵入。驚き困惑、怯えた。
その中で父の姿を確認できたものなんて極わずか、居なくても不思議では無い。騒ぎが収まった頃には血溜まりしかなかった。
姿がない、声もない、気配もない
導く答えなんて、一つしかないだろう。
❖
"
純白の穢れなき神殿。ここで封印業に携わる際に誓う。
⎯⎯⎯⎯人外共をなんとしても殲滅すると
「⎯⎯⎯⎯⎯、」
ザアザアと雨が降っている。昨日の良き天候とは正反対だ。
まるで自分の心を表しているようだ。
「特例、か」
本来、封印業は成人してからなるもの。それまでは研鑽を積みつつある程度の自由がある。
終わりは決められていてもその過程に至るまでは自由、何をしようが、何をしでかそうが自由。
一方、自分はまだ未成年の域。本来携わることがない。しかし父が居なくなった、永夜の当主が居なくなった。
永夜誠也以外子は居ない。特別措置というか、未成年でも構わないから当主になり封印業をやれと。
文句はない。
寧ろ⎯⎯⎯⎯⎯
「誓い、か」
人外を殲滅する
それは
でももう一つ、完全な私情を誓っても構わないだろう。
父を殺した人外を特定し、殺す。
乗り込んだ人外は父を食らったあと行方を眩ませた。痕跡は無い。
その場にふっと現れて、成しうることを成して消えた。
その例えが的確なくらいなかった。
人はいつか死ぬ。それは変わることの無い共通認識。人は死を克服出来ない。してはならない。
始まりがあるのなら終わりがあるから。
でも今じゃない。寿命がある。
現に父は弱っていてもまだまだ生きていける筈だった。
強制的に終わらせるなんてあってはならない。
強制的に終わらせる覚悟が相手にあるなら、自分という人間に終わらせられる覚悟があるということだろう。
「人が居ないのが少し寂しいな」
神聖な時間、神聖な空間である神殿内部には永夜の血縁者しか入れない。おそらく外で水樹含むその他諸々が居るだろう、現に気配が重苦しい扉の向う側から感じられる。
「(あの玉座に座っていたのか)」
目線の先には億年も経過している筈なのに錆も汚れもない純白の玉座。
あそこに永夜の始祖が座っていたという。
「(名も伝わらない神、貴方は何を思ってそこに座ることを決めたのだろうか)」
⎯⎯⎯⎯さて、そろそろ誓わなければ
制限は無いが早めにしなければ気が済まない。行動を移したい。
こんな事をしても父は多分喜ばない。なるべく長く生きて、喜ばしい事をして欲しいと思っている筈だ。言う筈だ。
でも、心の深く深くに根ざした黒いものがそれを許してはくれない。
人の命を奪う輩は如何なる理由でも悪だ。芯の通った理由があっても悪だ。
悪を斬るという名のもとに復讐をする
それがどんなに苦しいものでも、哀しいことでも構わない。
人から善性というカードを抜いたら後は悪性しか残らない。
そうして純白の玉座の下で黒い感情に染められた誓いを行った。
これが全ての始まり、これが僕の意思。
❖
⎯⎯⎯⎯⎯⎯妖美██執筆████についての研究メモ
昨日、永夜の当主がきりかわった
理由は永夜当主、永夜凪の死亡によるもの
現当主はその一人息子、永夜誠也
齢19
特例での当主
許嫁は明星光姫で確定
恒例
凪の死亡理由
█████に襲われた為
葬式はなく
遺体は喰われていた
一部分はあったと証言
ないと言われても仕方がない程
何故?
全てを喰らって力の足しにすればいいものを
まるでそうしたかったから?
思考は無いはず
痕跡なし
↓
瞬間移動したものと思われる
魔力痕跡微かに有
█████は扱えない
↓
第三者存在?
凪の交友関係に不明な点、疑わしい点なし
↓
第三者は誰?
・第三者?
名称・種族共に不明
高度な技術を持ち、計画性にも優れている?
人外達を統べる力と知識を持つ
封刀・黄昏は誠也に継がれた→封刀・黄昏の存在は知らない?
目撃証言無し
永夜に何かしらの恨みがある?
↓
永夜と仲が悪い家柄?
明星
→許嫁伝統があるが仲は悪い
黄昏
→永夜の影→滅びている→原因明星→永夜との関係性?
・やるべき事
明星に話を聞く
黄昏について調べる
畔の大賢者に聞く
・もし第三者が居たら
永夜誠也に伝えねばならない
・居なかったら
█████の力が上昇→これまでの力が通用しない→危機
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