第1話 平穏と崩壊
生まれて10年の歳月が過ぎた。つまり誠也が10の時、父の凪より剣技を教わる。
永夜家では"封刀・黄昏"という刀を伝承していてそれを使い人外を討伐する。最悪使わなくても討伐自体は出来るがその刀を用いた方が他の家に権威も示せるというもの。
何せ、その刀は永夜の始祖である神の時代から使われていたものだから。始祖が使う、始祖が言う、それだけでかなりの権力になるのがこの世界の特徴だ。
10歳の、というより誠也は飲み込みが早かった。若年にして「次期当主として恥ずかしくない」「それでこそ永夜の子だ」と賞賛を受ける。
賞賛はつまりプレッシャーだが誠也はまったく感じなかった。
父の愛で緩和するどころか感じさせないくらいの愛情と時間を注いだ。
父以外にも誠也には関係値が出来たことも大いに関係ある。
友人の
どちらも家柄が良いからという頭の硬いもので決められたものだが相性は良かったらしい、辰星は。
明星はツンとしていて将来の旦那かもしれない誠也を避けていた。
周囲は恥ずかしがっているだけとフォローしていたが嫌われていることくらい、いくら子供の誠也でも分かる。
でもきっと仲良くできるはずだと思っているのは子供特有の無邪気さか、無知故だろうか。
────そして時は流れる。
良くも悪くもある一点を除いて平和な永夜町。平和な事まで語ればそれはこの地の神話レベルに長いことになってしまうだろう。
気づけば僕、永夜誠也は12歳になっていた。
環境ががらりと変わるその節目。
封印業に関わる家は大体が永知学園という学園に受験する。
受験という言葉からしてエリート校。永夜町の外からも受験しに態々引っ越す人もいるくらいだ。
それだけ評判が良い。そしてかなり高等な教育を受けさせられる。
それだけじゃなく封印業に関わるのならと特別なカリキュラムも望めば受けられる。
という訳で中学受験。
ちなむと永知学園は中高一貫なので高校受験はしなくて済む。エスカレート式な分受かるのはかなり難しいが。
水樹も光姫も無論受ける。
そして3人全員一発合格である。これには流石に吃驚された。流石に1人は落ちるだろうと。…失礼過ぎる。
だが点数にすると1番高いのは光姫。あれはただの天才、水樹と僕は常人より飲み込みが早いだけで一度聞いたら分かると言うものじゃない。
けど光姫は違う。光姫は一度聞いたら全て理解してしまうギフテッド。
生き物としての格、そのものが違うような感触すら感じさせる。
入学した、と思ったらいつの間にか高校卒業していた。つまり18歳。
在学中は時が流れるのが早いとは思っていなかった。
何せ、水樹が退屈させてくれなかった。……うんほんとに。
誰が化学の実験途中で爆発物作って爆破しろって言ったよ。
水樹の趣味は爆発。本人曰く「芸術は爆発だ!」らしい。ごめん意味がわからない。分かりたくない。
嘘をつく能力も他よりも優れていた。
爆発物を作れて爆発できて、詐称能力にも秀でている。僕は水樹の将来が心配です。
「誠也、卒業おめでとう。そしてお疲れ様〜」
「そのお疲れの部分は大部分が水樹のせいだ」
式も丁重に終わり、ほぼ人が居ない。
皆、早々に家に帰ったかこれからの事の準備でもするのだろう。
卒業は終わりじゃない、始まりだ。
つまり2人きりだ。珍しいことでないし、これからもこの場面が出来上がるだろう。
「…でさ、キミどうするの?やっぱ封印業に就くよね」
「水樹もそうだろ」
ただ活躍する場所は違うだろう。
永夜は封印業の指揮者、最終決定権を握る。そして筆頭。つまりは他の誰よりも前に出る。
何故か、という野暮な疑問は言わない。昔からそうだからとしか言えないから。
一方、辰星は後方で支援する。
封印業はただ突っ走る者達だけじゃない。後ろから支援する者もいる。そうやって封印業は成り立っている。
辰星は情報を握る。情報戦だとしたら辰星に敵う奴は居ない。何せ辰星の始祖は伝令神ヘルメス、情報の神様だとか言われてるらしい。
始祖がそうなのだから子孫も情報に関してかなり関心が高く、正確で緻密なんだろう。…詐称能力にも秀でてたらしいし。だが爆発云々は知らないぞ。
「まあね」
そして沈黙。
この沈黙が退屈だとか居心地が悪いとは感じない。長いこと、10歳の頃から縁が途切れず関わってきたから言葉なんて無粋になってしまった。
それは良いが、許嫁候補…というかほぼ許嫁の光姫との仲は全く進展しない。
許嫁だからという理由じゃなく個人的に仲良くしたいがどうも避けられている。現に在学中も彼女との関わりは無に近い。
理由は知らない。父に(恥を忍んで)相談もしてみたがそんなものだよ、とやや放置されてる気がする。
…まあ子の色恋沙汰みたいなもんだし深くは関わりたくないよな。
長い長い沈黙。居心地の良い沈黙。
それを破ったのは1つの訃報。
「───あれ、誠也の従者だよね?」
「ん?」
学園の門の前、そこに自分の家の従者。
家柄が良いのであれば敷地も広く、管理もしきれない。なので基本従者を雇っている。
従者は従者でその家の血筋関係ではない。つまり学園にとって保護者でもない大人…要は不審者の類に入る。
それを気にして学園内には入れないのだろう。
お迎えとかそういう面倒なものか?と思ったがそういう雰囲気では無い。
何より表情が遠目でも分かるくらい憔悴しきっていた。
心の底から嫌な感じがした。
けど聞かない訳にもいかないので従者の話を聞くことにする。
多分自分達が良ければ不審者にはならないだろうが良い話という雰囲気では無い。少し足取りは重かったが小走りで従者の元に駆け寄る。
「何かありましたか」
いくら従者と言っても相手は人間で、しかも雇い主は自分の父。無下に扱っていいわけではない。
「それが……」
出だしからして不穏だ。水樹も察したらしく、強ばっている。
「旦那様が……旦那様が、」
「父さんが…どうした」
ドクン、と心臓の音が聞こえる。
周囲の雑音は聞こえないくらい大きく頭の中を支配するような音。なのに声は鮮明に聞こえる。
「旦那様が…お亡くなりになられました」
その後どういう反応をしたのかはあんまり覚えてない。ただ、祝福してくれているはずの桜吹雪の音が妙にうるさかった。
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