エピローグ
帝は、討たれた。
たった一人の魔導師が帝の首を討ったのである。かつて老女がそうしたように、呪いは成就されたのだ。帝国は若き皇太子ユルスュールが継ぎ、彼は父が犯した間違いの轍を踏まないと心に固く誓い、魔導師たちを帝国領に戻したという。
帝国領内にはまた、魔導師たちのいる暮らしが返ってきた。
針師の遺体は、愛しい男の身体と共に丁寧に葬られた。一人でいることに怯え続けた彼女は、ようやく孤独から逃れ、愛する者と共にいつまでも一緒にいることが叶ったのである。それは、彼女が心から望んだことではなかったか。
「よかったなイェータ。君はきっと、こんな世界を待っていたんじゃないのか」
髪が風になびくのをまかせたまま、レヴィルは墓標を眺めていた。
そこには、名前は刻まれていない。
ヒュウ……
「……」
俺はこれから、どうすればいいんだろうな。
レヴィルは目を細めた。問い掛けるべき恋人は、もうそこにはいない。
「君がいないから、これからしばらくは世界中を旅でもするよ」
そうして君に似たひとを探して、やっばり君がいなくて絶望して、ここに戻って来るんだろうな。それもいいか。
レヴィルはふっと口元を歪めて、意を決したように立ち上がって、それから青い空を見上げ、鳥の影を目で追った。
「また来るよ」
そして一度も振り返らずに、山を降りて行った。
レヴィルは世界中を巡り、乞われるままにイェータの話を人々に話して聞かせた。そしてどれだけ彼女が魅力的だったか、どれだけ彼女の口が悪かったかを語った。
彼は生まれ故郷には戻らず、一生独身を貫いたとのことである。
了
白娘記 青雨 @Blue_Rain
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