第三章 1

 断末魔の叫びが、地下牢に響き渡る。それを聞いて、たまりかねたように耳を塞いだ囚人がいた。

 魔導師の誰がしかであろう。

「あれは、折れたな。言っちまったんだ。真の名を」

「拷問か、それとも口を割るか。二つに一つだ」

「どのみち死ぬんだ。どっちにしても辛い」

 レイナンテ帝国の地下牢では、こんな囁きが毎晩のように交わされていた。捕まったその日からむこう、そのやり取りは一日たりとも途絶えたことはなかった。

「それにしても、なんだって帝はそんなことをするんだ」

「俺達に恨みでもあるのか」

「わからない。魔導師の真の名なんて、本人以外にはなんの意味もない、ただの名前だ。 利用価値なんてものはないはずだ。それを一体どうしようっていうんだ」

「さあな……わかっているのは、私たちはもうすぐ死ぬってことだけだ」

 絶望の沈黙が、辺りを支配する。

 一体何故。

 帝は一体何故、魔導師をこんなにも目の敵にするのか。

 何故、魔導師の真の名を奪っているのか。

 その謎を解くには、彼の幼少期を知ることから始まる。

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