第6話

5年生になって、初めて友達になった人が涼。



涼が日本代表チームのU−15クラブで活動してるのは噂で知っていた。



天才サッカー少年。しかもイケメン。


こんなんでモテないわけがない。



案の定、体育館で行われた始業式でも、涼への視線は(学年&男女問わず)熱かった。


「今日も神楽くんかっこいー!」

「神楽様さいこうっっっ!!」

「みてるだけで幸せ…!一ノ瀬くんもかっこいい!」」


「涼だ、今日もかっこいいな」

「あんなにサッカーうまいやつ今までみたことねぇ!」

「一ノ瀬と肩を並べてるもんな」



一ノ瀬、というのは武尊のこと。


武尊と涼は人気があった。

涼の方がサッカーはうまいけど勉強は武尊の方ができる。


2人ともすごいからあんまり差はないけど。


まあ、いろいろあって、2人は仲がいいらしい。



そんなことを思いながら、始業式を終え、教室にもどったら自己紹介が始まった。



「青木遥です!よろしくお願いします!」

「赤坂匠です、よろしくお願いしまーす!」


出席番号順でみんなが自己紹介していく。



私は「かぐら」だから意外と早い。


「えっと、華紅羅結南です。よろしくお願いします」



と、ありきたりな文になったけど、とりあえず無事にできたのにホッとした。



次は涼だ。



「えーと、神楽涼です。みんなも知ってると思うけど…」


私はその後に続いた言葉に驚愕した。


「ー“かぐら”は、2人いるから、俺のことは涼って呼んでほしい。結南は…どうする?」



そう言って、私の方をみて、にこっと笑った。



クラス中がいっせいにこっちをみた。


視線が痛いなあ。


「えっと、私のことは…結南ってよんでもいいし、華紅羅、でもいいですよ」


おずおずと小さな声で言うと…


「…結南ちゃん…って呼んでもいい?」


後ろの席の女の子が、私に言った。


「わ、私もいい?」


その隣の女の子も言った。



「も、もちろんだよ!」



結南ちゃん、と呼んでくれる人は数少なかった。(=友達が少ない。)



でも、この日を堺に、友達がちょっと増えた。


涼のおかげで。



でも、1番仲が良かったのは、やっぱり涼だった。



「神楽って、どう言う意味?」


「神楽って、神様を祀(まつ)るために演じられる…なんていうかな、歌舞伎…ちがうな…とにかく、舞、みたいな。間違ってたらごめん」


「ううん、ありがとう!神楽って珍しいよね」


「結南の“華紅羅”の方が珍しくない?日本に何人くらいいるの?もしかして、結南ん家だけ…とか?」


「さあ…わからない」


「でも、漢字は違うとはいえ、結南と名字が同じなんて、嬉しいなぁ…………結婚しても名字は変わんないね」


………………。


………?


…………うん?


…………はい?


…………え?


…けっ……


…こん…?



「えっ、ええ…?」


「あ…本音が」


出ちゃった…。と、赤い顔をして涼は呟いた。




「今の忘れて…」


「ごめん、無理かも…」


「言うと思った…じゃあ…」


涼は私の顔を覗き込んで、


「これは、2人の秘密。」



誰にも言わないで…と、困ったようににこっと笑いながら言った。



私はその時はすでに武尊のことが好きだったけど、ちょっとドキッとしてしまった。



それから時は流れて。



私たちは小学校を卒業する時を迎えようとしていた。




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